2024年11月15日 5時00分

字幕よ輝け

 映画の字幕(じまく)は、日本特有(とくゆう)の文化と言われてきた。海外でも外国映画に字幕が付くことはあるが吹き替え(ふきかえ)が主流の国が多い。イタリアでは人気のハリウッド俳優なら作品を問わず、同じ声優が吹き替える。テレビで俳優本人が話すのを見た知人は「ブラッド・ピットはこんな声だったのか」と驚いていた▼生の声を聴きたい身として、日本はありがたい。でも、なぜ字幕が主流になったのだろう。字幕翻訳者の太田直子(おおだ なおこ)さんは著書『字幕屋のニホンゴ渡世奮闘記』で、日本語は「チラ見」でも意味がつかみやすいからだと書いている▼漢字、ひらがな、カタカナの3種類を使ってめりはりが出せるため、「瞬間的に中身をある程度つかめる」という。とはいえ、字幕は「1秒で4字」が基本だ。2秒のせりふなら8字以内に収めなければいけない。高度な技術である▼そんな文化が広がる可能性を感じさせたのは、米エミー賞に輝いた「SHOGUN 将軍」だ。主演とプロデューサーを務めた真田広之(さなだ ひろゆき)さんは、せりふの70%を日本語にし、英語の字幕を使ったのは「大きな賭けでした」と話した▼視聴者の疲労を軽減するために字幕自体にもこだわったという。映像を追う視線に近づけ、通常より画面の高い場所に置いた。字幕が浮き出て見えるように背景の色調(しきちょう)も工夫した▼海外でも字幕が身近になってきたのは他言語の作品を見る機会が増えたからだろう。世界中のスクリーンに字幕が浮かぶのを想像するのは楽しい。君の瞳に乾杯。