2024年11月16日 5時00分

科学者たちの憂鬱

 各国(かくこく)政府がその役割を果たすまで、みんなで気候変動の研究を一時停止しよう。ニュージーランドと豪州の科学者が3年前に、こんな提案をした。国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)による評価報告書の作成に携わった専門家たちだった▼他の科学者から賛同は得られなかったが、「研究放棄」とは穏やかではない。背景にあったのは危機感といらだちだ。地球温暖化の原因は、人類が排出した温室効果ガスだと科学的根拠で示した。それにもかかわらず、各国は必要な政策を打ち出さないではないかと▼英科学誌がIPCC報告書の関係者に行った調査では、気候変動で「不安、悲しみ、その他の苦痛を感じるか」との質問に、61%がイエスと答えた。研究成果が社会に役立っていないと悲観する科学者は多いのだろうか▼猛暑(もうしょ)に洪水(こうずい)、森林火災。世界中で異常気象が相次ぐなか、アゼルバイジャンで今年の国連気候変動会議(COP29)が開かれている。焦点は途上国への新たな資金支援だが、必要だという巨額が先進国から集まるか▼特に心配なのは、「掘りまくれ」と化石燃料の増産を掲げて米大統領選に勝ったトランプ氏だ。かつて国際ルールのパリ協定から離脱し、今回も再度の離脱を宣言している。発表が続く新政権の人事では、かなり非科学的にみえる人も▼科学をかたくなに受け入れない。指導者の自国第一主義で、研究の苦労が生かされない。そんな風潮が広がったら、地球はどうなってしまうのか。