2024年11月20日 5時00分
谷川俊太郎さん逝く
詩人のねじめ正一さんが、谷川俊太郎(たにがわ しゅんたろう)さんと即興(そっきょう)の「漫才(まんざい)」を演じた。名うて(なうて)の2人による言葉の勝負。なぜか夕日に扮した谷川さんに、ねじめさんがインタビューをするという趣向(しゅこう)なのだが、ここぞ腕の見せどころ。変化球を投げつけた。最近、地平線と婚約したそうですね▼「あれ、どうして知ってるの」と谷川さん。「でもさ、入道雲のほうがよかったかな。地平線て一直線で素直そうに見えるけど、夜になると蝶々(ちょうちょう)結びになってひねくれるんだ」。瞬時に選んだ言葉のセンス。真骨頂(しんこっちょう)を見た、とふり返っている▼享年92。谷川さんが亡くなった。記憶に残る作品はいくつもあるが、一連のことば遊びが懐かしい。〈かっぱかっぱらった/かっぱらっぱかっぱらった/とってちってた〉(「かっぱ」から)。意味なんてなくてもいい、と詩の楽しさを教えてくれた▼言葉の力と格闘(かくとう)してきたからこその境地だろう。言葉への疑いを隠さなかった。「みんな、自分には言いたいことがある、それを表現できるって信じているんじゃないかな」▼思いが深ければ、なおさらである。盟友の大岡信(おおおか のぶ)さんが亡くなった時、本当はヒトの言葉で君を送りたくない、としたためた▼本人の詩「じゃあね」でお別れしよう。〈どこか見知らぬ宇宙のかなたで/また会うこともあるかもしれない/じゃあね/もうふり返らなくていいんだよ/さよならよりもさりげなく/じゃあね じゃあね……〉。二十億光年のかなたへ、すっと旅立ってしまった