2024年12月25日 5時00分

日々を数える

 明治の半ばまで、子どもの歌は文語体の難しいものばかりだった。もっとやさしく楽しい歌ができないものか。東京音楽学校を出た作詞家、東(ひがし)くめは「作曲のうまい後輩がいた」と、頼むに足る人物を思い出す。滝廉太郎(たき れんたろう)である▼童謡「お正月」は、このコンビのもとに生まれた。「もう いくつ ねると」と歌いつがれるのは、あれが日本の心象風景だからだろう。この年齢になっても、寒空の下を歩きながら、ふと心の中で口ずさんでいることがある▼来たる日々を指折り数える。その行為に季節の限定があるわけではないけれど、一番ふさわしいのは、やはり年の瀬から早春にかけてだと思う。日は一日ごとに長くなる。しかし寒さの本番はこれから。そのすれ違いがいっそう、小さな一輪がほころぶ日を待ち遠しくさせる▼作家の陳舜臣(ちんしゅんしん)さんが、著書『雨過天青(うかてんせい)』で「九九消寒図」という中国の風習を紹介していた。1枚の紙に、咲きほこる梅の絵が墨で素描して(そびょうして)ある。花びらは全部で81弁。一日終えるごとに、花びら1弁に色をつけてゆく▼厳しい冬の終わりが近づくのを、目でも確かめるという趣向(しゅこう)だろう。冬至にスタートして、塗り終わる3月には春本番となる。何とも風流な遊戯(ゆうぎ)である▼今年も残り1週間となった。街の店頭には、年末の営業最終日を告げるお知らせが貼られ始めた。日が暮れて、早くも灯がともった街。その明かりの下で、あるいは寝についた布団の中で、子どもたちが指折り数えている光景を想像する。