2024年12月28日 5時00分
それぞれの年末
あっという間に街のクリスマスツリーが消え、店先に鏡餅やしめ飾りが並ぶ。毎年のことながら、変わり身の早さに戸惑いを覚える。きょうから休みという方も多いだろう。何か落ち着かないこの時節、向田邦子さんは「お正月と聞いただけで溜息(ためいき)が出る」と書いた▼向田さんの随筆集『父の詫(わ)び状』には昭和の生活感が詰まっている。幼い頃、正月前に片付けた部屋は「重詰がいたまぬよう」にと火の気を抑えて寒かったという。ため息が出るのは、正月とは寒くて気ぜわしいものと決まっていたからだ▼寒い部屋で出番を待った重箱のおせち料理は、何日もかけて手作りしなくても外で買える時代になった。黒豆、だて巻き、田作り。1品ずつ由来が浮かぶのは私が昭和の人間だからかもしれない▼文と絵が内田有美さんの『おせち』という絵本が今、人気だそうだ。写真のような精密な絵にやさしい説明が付く。「くろまめ ぴかぴか あまい まめ まめまめしく くらせますように」「たけのこ くわい めが でて のびる(略)すくすく そだって おおきくなあれ」。平成育ちの親と令和の子が一緒に学べるのも、人気の理由か▼ともあれ、おせちで祝うだけが正月ではない。暮らしも価値観も多様な時代だ。年末年始の雰囲気が苦手な人、「家族でだんらん」の圧力に違和感を覚える人もいるだろう▼大切なのは居場所があり、だれもが心地よく過ごせることだ。普段より速く流れる時間でも、自分らしく楽しみたい。