2024年12月4日 5時00分
クマと自由至上主義
トランプ氏が勝利した米大統領選では、イーロン・マスク氏をはじめとするテック起業家たちが献金やSNS発信で貢献(こうけん)したとされる。共通するのは「リバタリアン」と呼ばれる自由至上(じゆうしじょう)主義者的な考え方だという。勉強しようと読みあさる中に、「リバタリアンとクマ」を主題とする興味深い本があった▼マシュー・ホンゴルツ・ヘトリング著『リバタリアンが社会実験してみた町の話』は、米北東部の小さな町で起きた実話だ。個人の自由を最優先し、政府の介入を極端(きょくたん)に嫌う一団が「自由の町計画」を掲げて移住して来た。そこへ腹をすかせたクマが次々と現れる▼銃で撃つ。ドーナツで餌付け(えさづけ)する。家に閉じこもる。クマの扱いも「自由」で臨むために役所へ通報もせず、頭数管理に協力しない。税金が嫌で予算を削ったため、ごみ処理もばらばらで無意識の「餌付け」になってしまう▼リバタリアンは「自由市場、最小国家、社会的寛容」という共通の価値観を持つが、各論では多様だ。この町の移住者たちの極端に自由な行動で、クマは増えた。移住者内の内輪もめもあって、計画は崩壊する▼野生動物との関係は悩ましい。住民が通報し、行政が機能し、警察が対応しても解決するのは難しい。日本でもクマが人里(ひとざと)に出没(しゅつぼつ)するケースが相次ぐ。先日も秋田市のスーパーで従業員を襲い、店内に2日間とどまった▼クマと人間の境界線をきっちりつくり、近づきすぎないようにするのが重要だ。双方が不幸にならないために。