2024年12月15日 5時00分
シリアの刑務所
シリアのアサド政権が崩壊して真っ先に懸念したのは、反体制派とみられて刑務所(けいむしょ)にいる政治犯たちの安否(あんぴ)だった。恐ろしいことが起きたのではないか。そう感じたのは、21年前に取材したイラク戦争の惨状を思い出したからだ。当時は米英軍が首都バグダッドを制圧し、フセイン独裁政権が倒れた▼その直後に私はイラク入りし、首都郊外(こうがい)の刑務所を訪ねた。政治犯らの家族が、多数の遺体を前に泣き崩れていた。目隠しをされ、銃で撃たれた遺体も複数あった。治安当局が逃亡する直前、情報漏れを恐れて処刑したのだという▼法的手続きなしの拘束(こうそく)や拷問(ごうもん)は、独裁政権につきものだ。シリアではアサド父子による独裁が半世紀以上に及び、数え切れないほどの政治犯が拘束(こうそく)された。各地の刑務所が解放された今、実態が明らかになりつつある▼最も過酷(かこく)で、拷問や処刑で数万人が死亡したとみられるセドナヤ刑務所では数千人が解放された。海外メディアなどの映像を見ると幼児(ようじ)もいたほか、やせて衰弱した様子が目立つ。所内で遺体も見つかったと聞き暗然(あんぜん)となる▼拷問用とみられる器具も見つかった。手足て足苦)を縛り、折り曲げた体を挟んで押しつぶす2枚の板は「空飛ぶじゅうたん」と呼ばれた。体を押し込めて両足をつり上げ、土踏まず(つちふまず)を殴打(おうだ)するためのタイヤもあった▼シリアの人々は長く監視され、密告におびえ、生命を軽んじられてきた。事態はまだ流動的だが、路上で政権崩壊を祝う姿に、今度こそ真の自由をと願う。