2024年10月6日 5時00分

缶詰王国あおもり

 缶詰をあけると、なぜか懐かしい気持ちになる。パカッと指で引くのでなく、ゆっくりと、缶切りを回してギイギイとあける。缶がタイムマシンになっていて、なかの時間が動きだすのか。あるいは、缶詰が小さなごちそうだった、かつての時代が蘇(よみがえ)るためか▼そんなことを思ったのは、青森県立図書館でちょっと変わった展示イベントを目にしたからだ。題して「缶詰王国あおもり~缶詰の歴史と食文化」。明治から昭和まで、複製した地元産缶詰のラベルを多数見ることができる▼「大きい歴史より、小さい歴史に興味があるんです」。主催した県立郷土館の増田公寧(きみやす)さん(52)は楽しそうに言った。「小学校のころから、お菓子の包み紙とかを捨てられなくて」▼青森の缶詰輸出のピークは昭和初期。大半が欧州向けの海産物だったそうだ。中身が見えない商品だから、デザインはどれも凝っていて、見るだけで面白い。展示の目玉、1898年ごろのホヤ水煮缶のラベルなど、何とも色鮮やかである▼そんな歴史を経て、この辺りでは、自家製の缶詰を贈り物にする風習も盛んになったという。春はタケノコ、秋はキノコを山で採り、近所の加工所でつくるマイ缶詰だ。ただ、何でも買えてしまう便利な時代だけに、最近はめっきり減ってきているとか▼どんなものかと知りたくて、増田さんが知人からもらったネマガリダケの手作り缶詰をわけて頂いた。作り手を想像しながら、みそ汁で食べる。ほんのり甘い、香りと味がした。