2024年10月14日 5時00分
忘れられた紛争
5年前、1枚の写真が世界の注目を集めた。撮影場所は、アフリカ北東部スーダンの首都ハルツーム。伝統的な白い衣装をまとい、金色のイヤリングをつけた若い女性が車の上に立っている。右手の人さし指を突き上げ、取り囲む群衆を鼓舞しているようにも見える▼当時のスーダンは、汚職の蔓延(まんえん)や米国による経済制裁の影響で経済危機に陥っていた。物価の高騰で激しい抗議デモが続くなか、若者の写真は民衆の怒りの象徴でもあった。SNSで拡散された2日後、30年続いた独裁政権が崩壊した▼その後は暫定政権が発足し、債務問題の解消に向けた動きが始まった。紆余(うよ)曲折を経て民政移管も視界に入ったが、昨年4月に突然、プロセスが停止した。国軍と準軍事組織のトップ同士の主導権争いが武力衝突に発展したためだ▼いま、スーダンは深刻な人道危機にある。最新の国連機関の発表では、国内外の避難民は約1130万人。全土へ広がった戦闘で国際的な支援組織が撤退し、食料不安が続く▼今年のノーベル平和賞の発表で、フリドネス委員長は「地平線上に暗い空を見ている人たち」が世界に多数いると述べた。日本被団協への授与には、世界中の「忘れられた紛争」で苦しむ民衆への思いも込められている▼スーダンで武力衝突が始まってから、あすで1年半になる。若者たちは各地に自力で支援組織を立ち上げて、食料や医療を提供しているという。この小さな光を消さないために、国際社会は支える必要がある。