2024年10月17日 5時00分

あれから1年で

 1年という時間が過ぎるのは早いか、遅いか。その人によって感じ方は大きく異なるに違いない。旧ジャニーズ事務所が、ジャニー喜多川(きたがわ)氏による性加害の事実を認めたのは去年の9月だった。それから、もう1年か、いや、まだ、やっと1年か▼きのうNHKが、旧ジャニーズのタレントらの番組起用を再開すると発表した。総合的な判断だそうだ。テレビ東京も先日、再開方針を明らかにしている。歯車が動き出す音がどこからか聞こえてくるようだ▼この1年で、被害の申告は1千人に上った。うち510人が補償(ほしょう)内容に合意したという。事件の異様さに改めて驚く。何十年も、じっと深い傷の痛みに耐えてきた人たちを思うと、言葉をなくす▼疑問は依然として、消えない。実態解明は道半ば(みちなかば)である。どれだけ被害者のことを考えた対応をしているのか。再発防止策は十分なのか。いくつものなぜに、旧ジャニーズ側は具体的に答えようとしていない▼被害者や家族はいまも、苦しんでいる。「誹謗中傷(ひぼうちゅうしょう)がひどくて。何とか生きてきたというのが正直なところです」。先週、記者会見したアイドルグループ「忍者(にんじゃ)」元メンバーの志賀泰伸(しが やすのぶ)さんは、絞り出すような声で言った▼1年が過ぎ、私たちの社会は何か変わっただろうか。傷つきながらも、声を上げられずにいる人の存在に気づき、痛みを感じとれる社会に近づいているだろうか。そんな問いを一人つぶやき、首を振る。今年の紅白歌合戦(こうはくうたがっせん)を、私は楽しめないかもしれない。