2024年10月1日 5時00分
大谷選手の記録
米大リーグ・ドジャースの大谷翔平(おおだに しょうへい)選手が日本時間の昨日、レギュラーシーズンを終えた。未明からテレビ中継で観戦し、「打者」として残した記録に改めて圧倒された。54本塁打、59盗塁、130打点。「投手」としては今もリハビリ中であることを、つい忘れそうになる▼本人は数字や記録に淡泊(たんぱく)なようだ。だが先月、史上初の「50本塁打、50盗塁」で語った言葉が印象に残る。これまでは「やっている人が少ない」中での記録だったが、これは「比較対象が多い」という意味で「違いはある」という▼確かに二刀流での記録は、道なき道を行く過程で得た。孤独感もあったかもしれない。今年は比べ、追い抜く先人らがいる。どちらも大変な記録だが、どちらも達成した者に見える景色は違うのだろう▼スポーツライターの山際淳司(やまぎわ じゅんじ)は、記録に挑む選手の孤独や苦悩を『バットマンに栄冠を』で描いた。主人公は広島カープで活躍した衣笠祥雄(きぬがさ さちお)だ。1987年に、大リーグ選手による連続試合出場の世界記録を48年ぶりに塗り替えた。シーズン前の冬、衣笠は米国の野球殿堂博物館を訪ねた▼自分がもうすぐ記録を抜く偉大な選手は故人で、殿堂入りもした。比べるのはおこがましい(〖身の程知らずな〗impudent)と遠慮する衣笠に、館長は伝えた。世界のどこでも、どんな文化でも、同じ野球なのだと▼国境を越えて大リーグを驚かせた大谷選手の活躍は、次の世代へのメッセージでもある。先例がなければ自分でつくれ。記録とは、限界を設けず破るものだ。