2024年10月4日 5時00分
郵便料金の値上げに思う
〈前略 ご免下さい〉。小欄の読者からこんな書き出しの手紙をいただくと背筋(せすじ)が伸びる。激励(げきれい)、抗議、ご提案と内容は様々だが、ほとんどが手書きだ。メールにはない温かみを感じつつ、ありがたく読む。かわいい絵はがきや珍しい切手が貼られた封書(ふうしょ)も▼昨日も読んでいたら、封筒(ふうとう)に貼られた切手の数字が3桁(さんげた)になっているのに気がついた。そうだった。今月から25グラム以下の封書が84円でなく110円に、はがきは63円から85円になった。消費税追加分の影響を除くと、30年ぶりの一斉値上げだという▼郵便物の数が約20年でほぼ半減し、人件費(じんけんひ)や燃料費が上がっている。やむを得ないとは思うが、大きな上げ幅だ。それなのにこれまで実感がなかったのは、メールやSNSの普及で手紙が身近でなくなったからか▼郵便が通信手段として主流だったころ、逓信省郵務局がまとめた本がある。1937年発行の『郵便料金値上問題と世論』で、38年ぶりの大幅値上げに世論が強く反応したのがわかる。1銭5厘(いっせんごりん)のはがきが2銭になった▼目を引くのは、当時の社会に漂っていた「非常時の空気」だ。国は軍拡(ぐんかく)に舵(かじ)を切っており、前年に2・26事件が起きた。蔵相(ぞうしょう)は郵便料金の値上げによる増収の一部を一般会計に繰り入れるよう求め、従業員の待遇改善(たいぐうかいぜん)に使いたい郵便当局と激しくやり合ったという▼時は流れて郵政が民営化されても、利用者減で値上げの流れは続きそうだ。それでもペンを取っていただけるよう精進したい。草々。
そうそう 【草々】 Sincerely. (!Yours sincerely, Sincerely yours と異なり, 堅苦しさがない. これにコンマを添え, 行を改めて署名する)