2024年10月10日 5時00分

衆議院の解散

 政治家たちの「平均顔」をつくったことがある。いまから15年前。衆院選のすえに、民主党による政権交代があった年だ。その象徴となる顔はどんなものか。当時は珍しかった画像処理ソフトで、顔写真の目や口などの位置を読み込んだ▼初当選した民主党の女性議員26人の平均顔は、弓(ゆみ)なりに伸びた眉(まゆ)が印象に残る。落選した自公の大物議員(おおものぎいん)20人の平均顔は、下がり気味(ぎみ)の目尻(めじり)。どちらも、もう少しくせの強い顔になるかと思っていたので、やや拍子抜けした▼政治家だけでなく「全体に、味のある顔がどうも減っている」と、先日亡くなった山藤章二(やまふじ しょうじ)さんが著書『似顔絵(にがおえ)』で嘆いていた。週刊朝日の連載ブラック・アングルで、ロッキード事件の田中角栄元首相や小佐野賢治(おさの けんじ)氏らをジャガイモなどに見立てた(みたてた)回がある。そして武者小路実篤(むしゃのこうじ さねあつ)風に「仲よき事は美しき哉(かな)」と。ニヤリとさせられる▼顔の変化は野菜に似ているとも、山藤さんは書いていた。「ハウス栽培野菜になってから、じつに均質になって、形はきれいになった。そのかわり(略)風味もアクも失われてしまった」▼衆議院が解散された。選挙戦を勝ち抜いて国会に集う(つどう)のは、外見が立派でも中身はスカスカの大根か、世襲畑で育ったひょろひょろのニンジンか、裏金という泥つきのゴボウか▼野菜売り場でしかと目をこらす。「この品ぞろえから選べと言われても」と不満がこみ上げても、ましな一つを選ぶ。主権者という言葉の重みをかみしめる時がやってきた。