2024年10月25日 5時00分

「出来心」と「裏公認」

 落語「出来心(できごころ)」は、間抜けな泥棒の話だ。空き巣(あきす)に入ったものの、貧しい長屋(ながや)で盗む物がない。そこへ住人のハチ公が戻ってきてしまい、縁の下に身を隠す。ハチ公は家賃を払わない理由に空き巣を使おうと、大家(おおや)を呼ぶ。泥棒をよそに、ハチ公と大家の掛け合いが面白い▼大家は、盗まれた物を詳しく説明しろと言う。布団の裏地(うらじ)は何かと問われたハチ公は、意味もわからないまま大家の布団と同じ「花色木綿(はないろもめん)」と答える。江戸時代の青い布地(ぬのじ)だ。調子に乗って裏地がない蚊帳も「裏は花色木綿」、さらに鉄瓶(てつびん)やお札まで「裏は花色木綿」と繰り返す▼とぼけた会話は笑いを誘うが、どんなものにも「裏」があるというハチ公の言い分は案外、真理を突いているのかもしれない。「非公認」にも裏があった▼自民党本部から、2千万円の活動費が支給されていた件である。裏金問題を受けて衆院選で非公認となった候補者(こうほしゃ)が支部長を務める政党支部へも送られていた。党幹部が「党勢拡大(とうぜいかくだい)のための活動費だ」と言っても、「裏公認」も同然ではないか▼そもそも政党交付金は不透明な政治献金をなくすためにできた制度で、財源は国民の税金だ。それがこんな風に使われることに、国民が納得すると思っているのか▼政党交付金と引き換えに廃止されるはずだった企業献金も、裏道を抜けるように続く。裏金の実態解明もされず、政治の闇は深い。落語のオチで縁の下から現れ、「つい出来心で」と白状する泥棒が、誠実に思えてくる。

出来心

『出来心』(できごころ)は古典落語の演目の一つ。別名『花色木綿』、泥棒噺の一席に数えられる。原話は文化5年(1808年)に刊行された十返舎一九『江戸前噺鰻』所載の「ぬす人」。また、類話として寛政頃刊の『絵本噺山科』巻三所載の「しな玉」がある。

あらすじ

「広い庭のある家に侵入しろ」といったら公園に忍び込み、「電話でもひいてあってこぢんまりしたところを狙え」と言われたら交番に盗みに行ってしまうような間抜けな泥棒が主人公。

兄貴分にも見限られ「泥棒を廃業しろ」と宣告された泥棒は、何とか自分の実力を証明しようととある貧乏長屋に忍び込む。ところが、忍び込んだ部屋には空き家だと勘違いしそうなぐらい何もなく、おまけに物色している最中に何と家人(かじん、いえびと)が帰ってきてしまった。

あわてた泥棒はひとまず縁の下にもぐりこむ。入れ違えで入ってきた家人(八五郎)は、荒らされた室内を見るやものすごい勢いで部屋を飛び出し、何故か家主(いえぬし)を連れて戻ってきた。

実はこの男、家賃を払えずに困っていたのだが、たまたま泥棒が入ってきたのをいいことに『泥棒に入られ金を持っていかれたから』と家賃を免除してもらおうと考えていたのだ。

八五郎からインチキの事情を聞いた家主は、「被害届を出すから」と彼に何を盗られた(ぬすまれた)のかと質問。あせった八五郎は、家主が羅列した『泥棒が盗って行きそうな物』を総て盗られたといって急場をしのごうとした。

ところが、途中で布団(裏地が花色木綿で出来ていた)が出るや、それ以後に家主が挙げた洋傘(ようがさ)や紋付、果てはタンスに至るまで総て(全て、すべて)「裏が花色木綿」と答えてしまったため話はどんどんおかしくなり、おまけに八五郎のインチキ話に激怒した泥棒が飛び出してきたため嘘は見破られて(みやぶれて)しまう。

結局、見つかってしまった泥棒は、家主に泥棒に入った理由を訊かれ、以前兄貴分に教わったとおり「出来心で」と答えて許してもらう。次に八五郎がインチキ話をした理由を訊かれ「つい、出来心で…」。

できごころ 【出来心】 【衝動】(an) impulse. ▸ 出来心で⦅衝動的に⦆それを盗んだ I stole it on impulse.