2024年10月30日 5時00分
秋霜烈日のバッジはいま
季節の目安である二十四節気で、いまは霜降(そうこう)である。降りた霜(しも)の冷たさから「秋霜(しゅうそう)」という言葉には、刑罰や権威の厳かな(おごそかな)ことという意味がある。検察官のバッジは秋霜烈日(しゅうそうれつじつ)と呼ばれ、自らを律して職にあたる気概と理想の象徴となってきた。それに大阪地検の元トップが泥をぬった▼検事正だった北川健太郎被告が準強制性交罪に問われ、初公判で起訴内容を認めた。酒に酔った部下の女性検事に性的暴行を加え、「これでお前もオレの女だ」と言ったとされる▼事実なら、怒りにふるえ、あきれ、ぞっとする。どんな言葉を重ねても女性の心の痛みが消えるわけではない。わかっていても平静でいられない。古い記事を見ると、北川被告は事件後、性犯罪などの被害者を支える新たな取り組みについて記者会見している。信じがたい▼各地の検察庁には、被害相談にのる職員がいて、ホットラインもある。こうした制度をよく心得ていたのが、被害にあった女性検事だったろう。それでも声をあげるのに長い時間がかかった▼「泣き寝入りさせられている被害者には『あなたは何も悪くない』と伝えたい。悩んでいるのであれば、信頼できる人に伝えて」。自らの苦しみを突き破って会見で述べた女性に、心から敬意を表したい▼検察の役割は犯罪を明らかにすることだ。だが組織の中枢(ちゅうすう)に加害者がいた。被害者がいた。その深刻さを真摯(しんし)に受け止める。泥まみれのバッジの輝きを取り戻すには、まずはそこから始めるしかない。
しゅうそうれつじつ ― 0【秋霜烈日】 (秋霜と夏の強い日差しのように)刑罰・権威・意志などが非常にきびしく,またおごそかであることのたとえ。