2024年4月3日 5時00分
2024年問題
40年ほど前まで、地方支局の駆け出し記者は、交代で駅へ行くのが日課だった。同僚たちの手書き原稿や、現像した白黒写真(しろくろしゃしん)を袋にまとめて、専用の窓口へ。夜行列車でゴトゴト運んでもらい、活字を組む本社に送る。「原稿便」と呼んだそうだ▼「日替わりで当番がやるはずなのに、下っ端(したっぱ)の自分が毎日やらされたよ」。懐かしそうに語る先輩も、社会そのものも、若い時代だったのだろう。列島の各地をレールが結んで、物が動く。鉄道は戦後長らく(ながらく)、物流の中心的な役割を担った(になった)。トラックによる宅配便の急成長で、手荷物などを運ぶ専用列車が廃止されたのは1986年のことである▼古い話を持ち出したのは、「モーダルシフト」という言葉を紙面で見たからだ。トラック運転手らの残業規制がいよいよ始まり、これまでのような働き方は出来なくなった。その分、輸送手段を鉄道や船に切り替えていこうという考えだ▼何のことはない。「原稿便」の頃はそういう光景だったとも言える。いま問われているのは、便利さを追い求めて生じた歪(ひずみ)をどう正したらいいのか、ということだろう▼もはや便利さは手放せない(てばなせない)というのなら、木目細かな(きめこまかな)配送に見合う対価を払い、働く人の賃金を上げる。当たり前のことをするしかない▼深夜もハンドルを握り、汗をかいて階段を駆けあがり、秒針(びょうしん)に追われて荷物を運ぶ人がいる。クリックするだけでその日に玄関先まで商品が届く、という説明は、ものごとの一面しか見ていない。
モーダルシフト(modal shift)、モビリティシフト(Mobility transition)とは、交通(貨物(かぶつ)輸送を含む) およびモビリティを、再生可能エネルギー資源を使用した持続可能な輸送に転換し、民間交通機関と地域の公共交通機関のいくつかの異なるモードを統合する一連の社会的、技術的、政治的プロセスである。