2024年4月24日 5時00分

春のない未来

 国連の新しい機関「未来省」が2025年に発足する。歯止めのかからぬ地球温暖化に対して、環境工学から法規制までを総動員して取り組む組織だ――と、ここまでは米作家のキム・スタンリー・ロビンスンによるSF小説『未来省』の冒頭である▼小説では、直後にインドを死の熱波が襲う。気温は42度。街は「炎のような、熱そのもののにおい」に覆われる。湿度も高く、汗をかいても体温は下がらない。停電が追い打ちをかける。エアコンのある部屋に逃げることもできず、死者は計2千万人に達する▼古典的なSFがありえない世界を現実らしく書いたのだとすれば、こちらはありそうな世界を虚構として書いた、とでも言おうか。それがかえって恐ろしい▼その未来省が考えたかのような対策が、きょうから始まる。環境省と気象庁による「熱中症特別警戒アラート」の運用だ。命を脅かす危険な暑さが想定された時に発表される。今年の夏もまた高温になるそうで、街が溶けそうな光景が早くも思いやられる▼あす以降さっそく、各地は夏日だという。立夏は5月5日。例年なら、暦の上だけの夏の始まりのはずだが、今年は本当に突入してしまうのでは▼本来いまごろは、春のみなぎる季節だ。そよ風に吹かれて若い命がぐんぐん育つ。だが、春を楽しめる日々は何だか年々短くなってゆく気がする。「かつて日本は四季の国と呼ばれたが、いまでは夏冬のみとなった」。そんな世界はSFの中だけでとどまるだろうか。