2024年4月9日 5時00分

ライドシェア、始まる

 「どうやって、ここまで来たのか。道路は封鎖されているはずなのに……」。韓国の学生らのデモが無残に武力弾圧された現場で、そう尋ねられたドイツ人の記者は静かに答える。「私はタクシーで来た」。映画『タクシー運転手』の印象的なシーンだ▼1980年に起きた光州事件での史実を元にした映画である。地元の新聞社が自由な報道を禁じられるなか、抜け道を通り、外国人記者を光州の町に運んだのは、ソウルのタクシーだった▼人気俳優のソン・ガンホさんが演じる運転手の人間らしさがいい。「戒厳令で商売はあがったりだ」と愚痴る(ぐちる)。お金のために、ずるいこともする。それでいて、人情に悩み、不義に怒り、記者を目的地に届けるのに懸命になる▼「彼のおかげで、事件を世界に報道できた」。ドイツ人記者は振り返っている。運転手のプロとしての機転がなければ、光州での取材は難しかっただろう。真実を暴く報道は往々(おうおう)にして、そんな個の専門性に支えられている▼きのう東京で、ライドシェアが始まった。タクシーでなく、一般のドライバーが運転する自家用車が、客を運べるようになる。深刻なタクシー不足を受けた制度変更だが、職業意識に欠ける運転にはならないか、安全性は大丈夫か、といった懸念もあるようだ▼まずは試そうと、車を呼んでみた。でも、乗れる車が見つからない。まだまだ、走っている台数が少ないのだろう。私たちの暮らしはどう変わるのか。期待を込め、慎重に見極めたい。

光州事件(こうしゅうじけん、クァンジュじけん)は、1980年5月18日から27日にかけて大韓民国(韓国)の全羅南道の道庁所在地だった光州市(現:光州広域市)を中心に起きた市民による軍事政権に対する民主化要求の蜂起である。

日本版の「ライドシェア」が4月8日スタートした。東京や横浜などの大都市や、京都などの観光地で、「タクシー不足が顕著」なエリアで実施されるもので、タクシー会社の管理のもと、一般のドライバーが自家用車等で有料で運行するサービスになる。

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