2024年12月6日 5時00分

古今東西(ここんとうざい)のおにぎり

 忙しい日の昼食は、おにぎりですませることが多い。片手で食べられて腹持ち(はらもち)がよく、財布に優しいのがありがたい。以前は自宅で握ったが、今は専ら(もっぱらお)にぎり店で買う。コロナ後に専門店が増え、豊富(ほうふ)な種類の具材(ぐざい)から選ぶのが楽しいのだ▼「いぶりがっこチーズ」や「だし玉めんたい」に感心していたら、先人のアイデアはその上を行くと知った。小田きく子(おだ きくこ)著『おにぎりに関する研究(第1報)』には、古今東西の約120種類ものおにぎりが網羅(もうら)されている▼例えば北海道の「開拓おにぎり」は梅干しを具に胡麻塩(ごましお)で握り、焦げ目を付けて笹(ささ)で包む(つつむ)。石狩川を(いしかりがわ)箱舟(はこぶね)で渡った開拓時代に食べたという。愛知の「合戦むすび」は、長篠(ながしの)の戦いに由来する。徳川家康が運んだみそをご飯で包み、焼いて戦陣食にしたのだとか▼味へのこだわりに加え、長く保存するための工夫も感じられる。さらに時代をさかのぼると、『源氏物語(げんじものがたり)』におにぎりを思わせる記述があった。光源氏(こうげんし)の元服を祝う場面で出てくる「屯食(とんじき)」だ。蒸したご飯を握り固めたもので、宴席で身分の低い者にふるまわれたという▼おにぎりは時代のみならず、いまや海も越えた。この数年、欧米などで専門店が増えている。ジブリファンの英国の知人は「これが『千と千尋の神隠し(せんとちひろのかみかくし)』で見た食べ物か」と感動したそうだ▼実は小欄も、おにぎりを食べながら書き始めた。コメの高値が続くなか、手元のおにぎりは値段は据え置きながら少し小さくなったのが寂しい。