2023年7月19日 5時00分
食料協定停止 ロシアは国際約束守れ
ロシアがおととい、ウクライナから食料を安全に輸出するための国際協定の履行(りこう)を停止したと一方的に発表した。
ロシアのウクライナ侵略はすでにエネルギーや食料の世界的な高騰(こうとう)を引き起こし、途上国を中心に多くの人々の生存権を脅かしている。世界有数の穀物産地(こくもつさんち)ウクライナからの輸出が止まれば、事態の一層の悪化は避けられない。ロシアには協定を履行するよう求める。
トルコと国連の仲介で昨年7月に成立した協定は、輸出船の黒海(こっかい)での安全航行の確保と、積み荷検査を主な柱とする。
だがロシアは、西側諸国の金融制裁の影響で自国からの穀物や肥料の輸出が進んでいないと主張していた。
制裁が自国の違法な侵略に対して科された事実をロシアはまず思い起こす必要がある。黒海経由の穀物輸出が滞る(とどこおる)のは、ロシアが始めた戦争で安全航行が難しくなったことが原因だ。それらを棚に上げ、被害者のように振るまうのは許されない。
協定履行を条件に制裁緩和をもくろんでいるのであれば、世界の弱き立場の人々の命を人質(ひとじち)に取るのに等しい(ひとしい)、人道に背く振るまいだ。
そもそもロシアがこれまで誠実に協定を履行してきたかも疑わしい。当初120日間とされた期間は3回延長されたが、ロシアは一時的に履行を停止したり延長期間を短縮したりと、揺さぶりをかけてきた。意図的に検査を遅らせて輸出を妨害しているとも指摘された。
行き場を失ったウクライナ産穀物が陸路で流入したポーランドやハンガリーなどでは、農家の反発で一時的な輸入禁止に踏み切る騒ぎも起きた。ロシアはこうした欧州の混乱も自国を利すると考えているのだろう。
先月にはアフリカ7カ国の首脳らが訪ロし、プーチン大統領に経済的窮状を訴えて戦争終結を求めた。プーチン氏は食料危機はウクライナでの軍事作戦とは関係ないと反論。ウクライナからの穀物供給が実現しても問題は解決しないと強弁した。だが、途上国の懸念に耳を塞ぐ(ふさぐ)姿勢を続ければ、ロシアは国際的な孤立を深めるだけだ。
国連とトルコはウクライナからの穀物輸出を継続するための交渉を、ねばり強く続けてほしい。ロシアも人道目的の国際努力に真摯(しんし)に応じるべきだ。
1年半近く続く戦争で、ウクライナの農地は荒廃が進む。小麦の生産量は昨年に続き今年も激減する見通しだ。地雷原(じらいげん)になったり、ダム破壊で洪水被害を受けたりした農地もあり、影響の長期化は避けられない。
根本解決の唯一の道は、ロシア軍の完全撤退しかない。