THIS WEEK「国際」 野嶋 剛 2023/07/13

王毅“レイシズム発言”の裏に習近平「脱・戦狼外交」の混迷

 中国外交を取り仕切る人物からレイシズム(人種差別)と受け止められかねない発言が飛び出した。

 中国・青島で7月3日に開催された日中韓の国際フォーラムで、王毅・共産党中央外事弁公室主任は「我々中日韓の人々が、米国に行っても、彼らは中日韓の区別がつかない。ヨーロッパでも同様で、頭を黄色(きいろ)(金髪、きんぱつ)に染めても、鼻を高く(整形)しても、西洋人にはなれない。我々の根っこはどこにあるか知るべきだ」などと、日韓の出席者に対し、まるで説教するような調子で述べた。

 一般社会はもとより、特に外交の世界において人種や民族などを外見的特徴から差別的に論じることはタブー中のタブー。

 欧米の反応は強烈だった。元中国米国商会主席のジェームズ・ジマーマン氏は「王毅の言論は軽率かつ横暴だ」。さらに、ヨーロッパの中国研究者、サリ・アルホ・ハヴレン氏は「王毅氏はこんな大雑把(おおざっぱ)な議論をすべきではない。彼がベルギー人とオランダ人とノルウェー人を区別できるなら別だけど」と皮肉った。

 昨年秋の党大会で習近平3選が固まったあと、攻撃的な「戦狼外交」は影をひそめ、「微笑外交」に舵を切ったように思われていた。習氏自身も昨年11月にAPECやG20の首脳会議に足を運んでいる。4月には対面で日中外相会談を行い、戦狼外交の先頭にいた秦剛外相(しんごうがいしょう)がニコニコと愛嬌を振りまく物腰に、日本の外交当局も驚いたものだ。

 ところが先月ごろから、雲行きが怪しくなってきている。6月のブリンケン米国務長官の訪中の際、習氏は自分の部下と会うような格下扱い(かくしたあつかい)の座席配置をした。これが直後のバイデン大統領による「習近平は独裁者」という発言につながった。その背景には、昨今の日米韓の関係緊密化への焦りがあると見られる。

「脱・戦狼外交(せんろうがいこう)」を試みたが上手くいかず、苛立ちを強める習氏。その代弁者となった王毅氏は、駐日大使時代は「京劇役者」ばりのイケメン知日派として人気を博した。また日本への親しみも隠さず、趣味のゴルフを通じて、日本でも人脈を築いていた。だが、外相、国務委員と出世の階段をのぼるにつれて、対日強硬姿勢を繰り返すようになる。16年にも「(日本は)中国を友人と見るのか、敵と見るのか」と挑発的な言葉を放った。保身のための「演技」が際立つようになった。

 現在は、共産党トップである24人の政治局員の1人となった王毅氏。この発言が、「演技」か「本心」かは、定かでないが、中国外交がますますリスペクトを失っていくことは間違いないだろう。

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