THIS WEEK「国際」 近藤 奈香 2023/05/18

学歴、職歴がほぼウソの米議員 起訴されても共和党が守る理由

 5月10日、米共和党のジョージ・サントス下院議員(34)が起訴されて、身柄を拘束された。昨年、ニューヨーク州の選挙区で当選したばかりの新人だが、「嘘でない情報を見つける方が困難」(米各紙)と報じられてきた人物である。

 その起訴内容だが、ブランド品の買い物や借金返済などへの選挙資金の流用、約2万5000ドル(約335万円)以上のコロナ失業手当の不正受給、マネーロンダリングなど、13にも及んだ。仮に有罪判決を受ければ20年の禁固刑となるほどの重罪も含まれる。担当する検事は「さまざまな詐欺や虚偽記載の責任を負わせる」と鼻息が荒い。

ジョージ・サントス.png

 本人は、全ての罪状を否認。保釈金50万ドル(約6700万円)を払い保釈されたのち、「魔女狩り(まじょがり)だ」と検察批判を展開している。

 しかし、サントス氏は立候補時から、ウソばかりついてきた。自身を「アメリカンドリームの体現者」(移民の子供で、苦労して金融界で成功した同性愛者)とアピールしたが、そこからして虚偽(きょぎ)ばかりなのだ。

 ブラジル系移民の子孫であることは事実。ただ「ユダヤ系でホロコースト被害者の子孫」はウソで、ユダヤ系団体が抗議する事態に発展した。ニューヨーク大学でMBAを取得したとするのも虚偽で、そもそも大学を卒業していない。また、金融マンだったこともなく、シティグループやゴールドマン・サックスに勤務した事実もなかった。

 同性愛者であると公言してきたが、女性と結婚していたことも発覚。この指摘には、「性的な指向が変った」と言い訳をしている。ただブラジルで女装コンペに参加していた事実は、なぜか強く否定した。

 さらにニューヨークのコロナ患者第1号という、子供じみたウソもついている。

 このサントス氏を擁護し続けたのが共和党である。同党のマッカーシー下院議長は、「選挙区の有権者は彼を選んだ」と言い放ってきた。さすがに起訴後はトーンが落ちてきているものの「除名」などの処分を明言はしていない。下院では与野党が拮抗しており、議席差は9。「1議席も失いたくない」のが共和党の本音なのだろう。

 共和党といえば、元祖(がんそ)お騒がせ男・トランプ前大統領とも関係が深い。サントス氏はトランプの熱心な支持者で、「リンカーンとレーガンに並ぶ最高の大統領」と公言。21年1月の米議会襲撃事件の直前に、トランプ支持者の集会で「自分も大統領と同じく選挙不正に遭った」と演説していた(当時は落選中)。

 嘘と誇大妄想の政治スタイルは、敬愛するトランプ譲りなのである。


2022年に連邦下院議員に選出されたが、当選直後から経歴詐称や詐欺への関与が発覚した。

経歴詐称

サントスは自らの政治活動で以下の様な経歴を述べていた。

母方の祖父母はウクライナ系ユダヤ人移民で、ナチスによるホロコーストを逃れてベルギー経由でブラジルに亡命した。 ニューヨーク市立大学バルーク校で金融と経済学の学士号を取得、クラスの上位 1%の優秀な成績で卒業したのち、ニューヨーク大学(NYU) で経営学の修士号を取得し、大学院管理職入学試験で 710 点を獲得した。 シティグループとゴールドマン・サックスで14年間働き、2019年と2020年にはエリート予備校であるホレス・マン・スクールに通っていたが家族の苦難のために退学。 2013年に設立した動物保護NGOにて「2400頭のイヌと280匹のネコを救助した」実績を持つ。

 ところがニューヨークタイムズが一連の経歴を調査したところ、ベルギー移民ではあったがユダヤ系の血縁関係は皆無で大学に籍を置いていた記録も無し。職歴も全くの架空であったと判明した。サントスは虚偽を認めたものの「言葉のアヤ」と弁解、更にニューヨーク州の共和党組織から辞職を要求されてもあくまで議員の職にとどまると表明した。