ツチヤの口車 第1313回 2023/10/21
迷える若者への返信
お便り拝見しました。人生の選択に迷っておられるとのこと、ご参考までにわたしの生活をご紹介します。
最近、老化のためか、運動不足のためか、身体が思うように動きません。立ったまま靴下を履くこともできません。片足ずつしか履けないのです。先日は首が10度しか回らなくなりました。寝違えです。だいぶよくなりましたが、180度回るところまでは回復していません。腕立て伏せ(púsh-ùps)も100回は絶対に無理です。念のためさっき試したら1回もできませんでした。
ジャンプ力も衰えています。昔は学校の教卓に跳び上がっていましたが、最近猛練習をしたのが功を奏して(こうをそうして)、30センチの台に跳び上がるのを簡単に断念することができました。近い将来、10センチの段差(だんさ)にもエレベータが必要になると予測しています。
その反面、平らな(たいらな)ところでも簡単につまずきます。失敗が考えられないところで失敗してきたこれまでの人生を象徴的に表現して、しつこく思い出させようとしているのでしょうか。
最近の若者(60歳以下)には眉をひそめることもありますが、藤井聡太八冠や大谷翔平選手のめざましい活躍には、自分もぼんやりしていられないと奮起しています。ただ、ぼんやりすることしか得意なことがありません。
しかしこの歳でも、努力次第では、球速160キロのボールを何本場外(じょうがい)ホームランにできるかを競争したら、藤井八冠(はちかん)と互角(ごかく)に闘えそう(ともに0本)ですし、大谷選手と将棋をすれば、10回に1回は勝てるのではないかと夢想しています。
いくら歳をとっても役立つ人間になりたいと思いますが、これまで一度も役に立った経験がないので、どうしたら役に立つのか分かりません。介護を受けないのが一番役に立つのかもしれませんが、介護職の人々から仕事を奪うようなことはしたくありません。
ペットを飼えば、ペットの健康と命をあずかるのですから、ペットの役に立つことができます。大型犬が好きなので、どの犬種(いぬしゅ)にしようか3時間考えた結果、介助犬(かいじょけん)がいいという結論に至りました。ネコも好きなので、どんな種類のネコがいいのか2時間かけて結論を出した後、いま住んでいる所はペット禁止だということを思い出しました。
資力で役に立つ道もあります。大したことはありませんが、東京と神戸の中心部に家が何軒かあります。それを売れば数十億は手に入りますから、多少は役に立つことができそうです。ただ、どれもわたしの家ではないので苦慮しています。現金なら、うなるほどあります。人の金が銀行に。
家庭生活のこともお伝えしましょう。先日、ジョークを妻に教えました。
「男が毎週墓参りしていた。妻の亡き前夫(ぜんぷ)の墓に。男は毎回、墓に向かうと『なぜ死んじゃったんだ?!』と泣きながら責めていた」
妻に亡き前夫がいたらわたしも同じことをしたでしょう。わたしの気持ちを知ってか知らずか、妻は他人事のように笑いました。高笑いに聞こえました。
妻は「苦痛は怖くない。いくら苦しんでもかまわない。自分でなければ」と考えています。実際、わたしがいくら苦痛を訴えても同情も関心も示しません。他の人には通用する嘘が妻には通用しないのです。
夫に先立たれた高齢女性は、夫のことはいい思い出しか残っていないと話しています。妻のわたしへの評価を上げるには死ぬまで待たなくてはなりません。
以上が現在のわたしの生活の一端です。どんな人生を送っても、歳をとればほぼ同様の結果になると思います。適当に気分で選んでも結構です。結果的には大差ありません。