ツチヤの口車 第1292回

ある連休

 連休に入ったところで、友人にメールを書いた。

【第1信】お元気ですか。わたしは元気なのか、自覚できないほど悪化した重病(じゅうびょう)にかかっているかです。

 先日アドバイスしていただいたワイヤレスイヤホン(wireless earphone)、ついに買いました。セールで安くなっていたのです。音質は最高です。本当に最高の音質なのか、そう思い込んでいるだけなのか、どちらかですが。

 合わせてセール中の卓上(たくじょう)スピーカーと野菜の電動カッターを買いました。そろそろ終活に入って身辺整理(しんぺんせいり)を始めなくてはならない年齢なのに、物は増える一方です。これではいけないのか、後先考えず、欲望を満たすことを優先すべきなのか、どちらかです。どちらにしても、いまさら方針転換は無理ですが。

 連休が始まりましたが、おそらく貴兄(きけい)は会社の仕事から解放されて連休に感謝しているか、家にいて、イヤイヤ期を迎えた双子(ふたご)のお子さんの世話をするなど、家にいる方がキツいことを痛感して連休を恨んで(うらんで)いるかだと思います。

 すると返信がきた。連休中に田舎の実家に子どもを連れて帰省する予定なのに、ぎっくり腰(ぎっくりごし、a strained back, a slipped disk)になったという。フビンに思って返信した。

【第2信】連休が本格的に始まる前からぎっくり腰とはお気の毒です。天罰(てんばつ)が下った(くだった)か、本格的な重大天罰がこれから下るかです。ぎっくり腰は、本当に痛いのか、痛くもないのに痛いと言い張っているのか、他人には判断がつかないため、疑いの目で見られます。本当に痛いにしても、どの程度の痛みなのか、本人のことば以外、不明です。

 信用されるかどうかは過去の実績で決まります。過去、信用を落とすようなことをしたかどうか胸に手を当ててみてください。思い当たることがあるか、思い当たることがないか、どちらかです(どちらでもない場合は、専門医の診断を仰いで(あおいで)下さい)。思い当たることがあればもう打つ手はありません。信用されることはありません。腰骨(こしこつ)が粉々(こなこな)になったレントゲン写真を見せても信用されません。

 一方、思い当たることがない場合も、すでに信用を失っているはずです。なぜかと言うと、仮病(かりびょう)やへそくり(秘密の貯金)がバレたことがないから大丈夫だと思うのは大間違いだからです。一度でも「熱が出た」などと不調を訴えたことがあれば、それだけで信用は失墜(しっつい)します。なぜなら「熱が出ても相手に心配かけないよう、何も言わないのが当然なのに、熱が出たことをわざわざ訴えるのは、何かを免除してもらいたいという卑しい利己的理由からだ」と見抜かれるからです。また待ち合わせに5分以上遅れたことがあれば「死ぬ気でがんばれば、前日にでも到着しているはずだ」と本気度(ほんきど、ある事に対する真剣さの度合)を疑われます。約束したプレゼントを品切れ(しなぎれ)で買えなければ「なぜ1週間前から並ばなかった?」と批判され、ゴキブリ、地震、クマ、強盗(ごうとう)を怖がれば「怖がってどうする!自分の命を投げ打ってでも家族を守れ!幻滅した」と痛罵(つうば)されます。これらが1回でもあれば取り返しはつきません。信用度はゼロです。

 結局、お子さん連れで帰省して腰痛が悪化するか、帰省を断念して、ご両親とお子さんの失望と奥さんの怒りを買い、今後、何を言っても信用されず、家族全員から軽蔑されるようになるか、どちらかです。

 今後、貴兄がわたしと同じ苦労を背負って歩む未来を思い、同情のあまり、居眠りしてしまいました。

 目が覚めて自問しました。こんなメールを書いて貴重な連休の時間を浪費していいのか。もっとまともなことをするか、もっとまともなことが何なのかを考えるか、その前にもう一寝入りすべきではないのかと。

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