私の読書日記 橋本 愛 2023/03/30
われらはすでに共にある
私がこれから記述する、極めて短期間で学んだ知識、表現、言葉には、依然として理解の足りていない内容が含まれる恐れが十分にある。また紙幅(しふく)の都合上繊細なディテールを省略してしまう場合もある。至らなかった点については都度学んでアップデートしていくことを自分自身に約束する。
何の知識もないままに、究極的(きゅうきょくてき)に安易な誤解をし、あらゆる人たちを気づかぬうちに排除しようとした。結果、私の大切な人たちを深く、深く傷つけた。トランスジェンダー(出生時に割り当てられた性とジェンダー・アイデンティティが一致しない、違和感があるなど)を含むLGBTQ+の方々が、子どもの頃から今までどんな苦しみの中で生きてこられたかも知らずに。「おとこおんな」などと馬鹿にされ殴られるなどのいじめ、性別適合(てきごう)手術の経済的負担や苦痛、気を失いそうな痛み、トイレなどの環境で自分が誰かにとっての脅威になるかもしれないという恐怖、身体が性自認と異なる方向に変化していく恐怖、「身体が男性」という言葉がいかに暴力性を孕んだ(はらんだ)言葉であるかということなどさえ知らずに。大切に思っていたはずの人たちを、あろうことか自分の手で深い悲しみに突き落としてしまったことに、私は心の奥底(おくそこ)から絶望(ぜつぼう)したのだ。
日頃からあらゆる暴力や差別に直面し、そんな社会構造を変えようと、日々苦しみながらも言葉を尽くしている人たちによって語られた文献、資料などの中に、「トランス女性が性別適合手術をしないまま女湯(おんあゆ)に入ることを許可して欲しい」と訴える声は一つもなかった。そのような行為は、法律に違反した行動であると当然認識している人たちばかりだった。
入浴施設については個別のケースに応じて個室スペースを利用するなどの現状が既にある。男女に二分化された公共(こうきょう)トイレについても、既に問題なく使用している人たちはいる。私たちが気づいていないだけで、もう既に、あちこちですれ違っているはずなのだ。
けれど、男女に二分化されたトイレだけではあらゆる事情で利用しづらい人がおり、膀胱炎(ぼうこうえん)などの深刻な健康被害に及ぶ場合もある。韓国で16万部超のベストセラーとなった『差別はたいてい悪意のない人がする 見えない排除に気づくための10章』(キム・ジヘ 尹怡景訳 大月書店 1600円+税)に書かれているように、「すべての人が平等なら、だれもが行くトイレを、真にだれでも行けるようにしなければならない」。シスジェンダー(出生時に割り当てられた性とジェンダー・アイデンティティが一致している)の方々にとっても、LGBTQ+の方々にとっても、全ての人が安全で快適にトイレを利用できる権利を保障するためのアイデアを出し合い、実行していく必要がある。