池上彰のそこからですか!? 第580回 2023/07/28
アメリカはUFO情報を隠蔽?
Q UFOって、存在しているんですか?
A もちろん存在しているさ。
Q マジっすか!? まさかそんな返事が返ってくるなんて。
A ちょっと待った。UFOの意味を知っているかな?
Q カップ焼きそばの名前だというのは冗談だけど、要するに宇宙人(うちゅうじん)の乗り物のことでしょ? 宇宙人って、いるんだ……。
A 慌てない、慌てない。UFOとは「Unidentified Flying Object」の頭文字を並べたもの。日本語にすると「未確認飛行物体(ぶったい)」のこと。宇宙船のことじゃないんだ。世の中には、確認できないものがいくらでも存在している。空を飛んでいるように見えるけれど、飛行機や鳥とは直ちに特定できないものを、とりあえずUFOと呼んでいるに過ぎないんだよ。だから、実体がわかれば、なーんだ、っていうことで終わってしまうレベルのものもある。
Q でも、宇宙人の乗り物という可能性がないわけじゃないんでしょ。
A ま、そりゃそうだ。いまの50代や60代の人の中には、テレビでUFO特集を頻繁(ひんぱん)に放送していたのを子どもの頃に見ていた人もいるだろうね。
そうした番組の制作に携わっていた人に聞いたことがあるんだけど、夜中に山の上に照明器具を運ぶのが重労働だったそうだ。
Q その照明器具って……。
A そう山の向こうに怪しい光が見える。もしや空飛ぶ円盤ではないか……というシーンを撮影するためだったそうだ。
Q そんなこと、いまだったら大問題。BPO(放送倫理・番組向上機構)に言いつけてやるっていうレベルの話じゃないか。
A まあ、昔は牧歌的(ぼっかてき)だったんだね。子どもたちは夢中になって見ていたかも知れないけれど、大人たちは笑って番組を楽しんでいたんだよ。
Q でも、最近アメリカ議会がUFOをめぐって騒ぎになっていると聞いたんだけど。
A そうなんだ。UFOならぬUAP(Unidentified Aerial Phenomena 未確認空中現象)という言葉を使って、下院が真相解明に乗り出したというわけなんだ。
Q なぜいまそんなことをするの?
A これはアメリカの情報機関のひとつの国家偵察局(NRO)でUAPの分析に携わっていたデビッド・グラシという人物が6月上旬、内部告発したからだ。これについて日経新聞が記事を書いている。書いた記者、UFOが好きなのかなあ。
〈同氏によると、米政府や同盟国、防衛請負業者(ぼうえいうけおいぎょうしゃ)は数十年にわたり墜落や着陸した「乗り物」やその破片を回収してきたという。さらにリバースエンジニアリング(構造分析)で製品の材料や構造、性能を詳しく解析してきたとも語った。
形状や材質から地球外から起源しており「非人類由来」だと断定している。宇宙船とみられる物体から「パイロットの遺体」なども発見されているとも主張した〉(7月5日付電子版)
真相は明らかになるのか
Q すごい話。本当なんだろうか。
A 日経新聞によると、告発したグラシ氏は実物の写真を見たことはなく、〈ほかの情報機関関係者からの伝言で情報を得た〉というんだ。
Q なんだ、直接的な証拠があるわけではなく伝聞情報なんだ。
A でも、この告発によって連邦議会は動き出した。UAPについての公聴会が開かれるという。民主党の上院トップのシューマー院内総務は〈何十年にもわたり米国民はミステリアスで奇怪な物体に魅了されてきた〉と説明。〈我々は政府がこれまで収集し、公開しなかった情報を公(おおやけ)にするため尽力する〉と述べたと日経新聞は7月19日の電子版で伝えている。
Q 大真面目に取り上げるのもアメリカらしくて面白いけれど、そもそもアメリカは、UFOに関する情報を公開しているんじゃないのかな。
A そうなんだ。今年の1月に、アメリカのCIAなどの情報機関を統括する国家情報長官室が2022年のUAPについての年次報告書(ねんじほうこくしょ)を公表している。「年次報告書」を公表するなんて、それこそマジか!? と言いたくなる。大人になっても夢から逃れられない人が大勢いるんだね。
Q で、どうだったの?
A 〈説明できない空での現象は増え続けており、22年8月時点で未確認飛行物体(UFO)を含むUAP((Unidentified Aerial Phenomena)の報告が計510件あったとした。多くの事例で十分な情報がなく、解明できていないとしている。
報告書は「UAPは米国の制限空域などで起き続けている」と指摘。地球外生命体の存在を示す証拠はないが、飛行の安全や敵対勢力への懸念が生じるとし、外国政府が関与している可能性も含めて引き続き調査するとした〉(1月13日付日経新聞電子版)
Q そうかあ、宇宙人とは限らないんだ。そういえば、中国の偵察用の気球がアメリカ本土上空を飛行して大問題になったこともあるね。
A こういうものも確認が済むまではUFOに分類されるんだ。
Q でも、UFOといえば、アメリカにはそもそも「エリア51」と呼ばれる秘密基地があるんじゃなかったっけ?
A 出た、伝説のエリア51! これはネバダ州のラスベガスの北西約130キロの砂漠の中にある基地で、東西冷戦時代の1955年に建設された。ここで極秘にアメリカ空軍(くうぐん)の偵察機の開発が進められた。ここで働いていたと自称する人物が、テレビのインタビューで「宇宙船がある」と言ったことから、「エリア51には宇宙人がいる」と“証言”したことになって騒動になったけれど、この人物の経歴詐称(けいれきさしょう)が見つかり、すぐに信用されなくなった。実際にはエリア51では、宇宙船ではなく他国からこっそり入手(にゅうしゅ)した戦闘機などの飛行実験もしていたんだ。
Q 結局はがっかりすることが多いけど、今回はどうなるんだろう。
- エリア51(Area-51)