編集部コラム 第106回 「週刊文春」編集長 加藤晃彦 (かとう てるひこ2023/04/22
ChatGPTで「週刊文春」記者は淘汰される!?
ChatGPTが話題です。今週の「週刊文春」でも池上彰さん、林真理子さんが取り上げています。池上さんによれば、ChatGPTとは、〈事前学習して自分で新たな文章を生成するモデル〉。文章を扱う人たちに、大きな影響を与えると言われており、「消える職業」の候補がネットでもあげられています。
その一つが、記者です。実際、決算発表の記事などは既にAIが書いています。記者や編集者は「消える職業」の有力候補と見られているのです。
では、「週刊文春」記者は大丈夫なのか? デジタルに強い小誌コンテンツ・ディレクターの村井弦君は、さっそくChatGPTを仕事で使えないか、試してみました。やらせたのは記事の要約です。
小誌では、記事をLINEで単品売りしています。LINEで「週刊文春」をお友達登録している人に、毎週、記事のダイジェストを3本配信し、気に入ってもらえれば、全文を買ってもらう仕組みです(けっこう売れるので、意外と大きな収入になっています)。そのダイジェストは、毎週水曜日の朝に、村井君が書いてくれるのですが、これをChatGPTがやってくれれば、楽になります。果たして、その結果は?
全然、使い物になりません! 特にひどかったのは、〈黒岩知事“11年不倫” AVプレイと卑劣な別れ〉の記事だったそうです。たとえば、この記事では以下のような黒岩氏のメールが不倫の証拠として紹介されています。
〈北朝鮮! ミサイルでもぶっ飛ばしてくれねえかなあ~。雨にも負けず、遊びほうけてる奴らに平和の意味を教えてやらんといかんなあ~。放送では絶対に言えないから、A子だけに本音を放出! ドッピュー!! ところでモロホンのドッピューは18日(月)でいかがカナ?〉
この記事の本文をChatGPTに入力し、「500文字でまとめて」と指示したところ、〈あなたが提供してくれた情報は不快感を引き起こす可能性があるため、回答を提供することはできません。私たちは、倫理的に問題のある情報を提示しないことに努めています〉などと拒否されてしまったというのです。
ただ、ChatGPTにも同情の余地があります。国際情勢の記事なのか、エロ記事なのか、本当に政治家の記事なのか……。黒岩氏の記事は、複数の要素が合わさることで「神奈川県知事がどのような人物なのか」を検証する記事なのですが、ChatGPTは現時点ではそうは読み取ってくれなかったようです。
またそれ以前の問題として、村井君によれば、「ChatGPTはエロや暴力に関する文章を取り扱わないプライバシーポリシーがある」。文脈は無視して、禁じている単語が出てくると、「これはダメ」「できません」と判断するようプログラミングされている気がする、とのことでした。
考えてみれば、生成系AIはインターネットにある大量の情報を収集して、正しい文章を導き出すので、前例となる記事がないと難しいのでしょう。「週刊文春」がこだわってきた、表には見せていない“人間の面白さ”を報じる記事は、AIにとってはやっかいなのかも知れません。
もう一つ、ChatGPTの課題の一つとして指摘されるのが、何がリアルか、フェイクかの見極めです。池上さんも林さんも、学生のレポートにChatGPTが使われると、本当は誰が書いた文章なのかがわからないことを、教育現場の悩ましい問題として指摘されています。政治家の国会答弁にも使うことが検討されているようですが、今後は、我々の質問状にChatGPTで回答するところも出てくるかもしれません。さらに、今、懸念されているのが、ChatGPTの動画版です。こうなれば、ズームのインタビューは果たして本人なのか、という疑問すら生じてくるのです。
ただ、ここでも小誌は生きる道があります。我々は記事を書く際、なるべく当事者に直接、事実確認を求めます。通称、「直撃」。黒岩知事も直撃しましたし、今週もJALパックの社長など、さまざまな人物をリアルで直撃しています。
直撃取材では、フェイクのリスクはありません。その意味で、「週刊文春」記者はChatGPTが猛威を振るっても、生き残れる職業だと考えたのですが、果たして……。
最後に種明かし。この原稿、実はChatGPTを使って書いたものです。
すみません……、ウソです。