2023-08-31 THIS WEEK「国際」 「週刊文春」編集部

プリゴジンの遺産は誰の手に 習近平がワグネルを雇う(やとう)日

 8月23日、ロシアの首都モスクワの北方(ほっぽう)で、民間軍事会社「ワグネル」の創始者(そうししゃ)エフゲニー・プリゴジンが搭乗していたとされる飛行機が墜落した。27日には、DNA鑑定による死亡確認が発表された。

プリゴジンの最後のSNS投稿はアフリカからとされる ブリコジン最後のSNS.png

 ウラジーミル・プーチン露大統領(ろだいとうりょう)は、間髪をいれず(かんぱつをいれず)かつての盟友(めいゆう)を追悼するスピーチを行った。そこでは、「困難な人生を歩み、深刻な過ちを犯したこともあった」と6月に起こした反乱劇を振り返っている。

 中村逸郎(なかむら いつろう)筑波大学(つくばだいがく)名誉教授(めいよきょうじゅ)は、死の影響力を極力(ごくりょく)小さくしようとするロシアの意図を感じるという。

「プーチンによるメッセージは、ロシアのニュースでは、5番目か6番目の扱いでした。しかも、搭乗していた人たち全員への追悼(ついとう)のなかで、プリゴジンに触れた程度です。大々的(だいだいてき)に扱うとプリゴジンが英雄視(えいゆうし)され、ワグネルへの抑制が利かなくなると、神経を尖らせていると考えられます」

 プリゴジンの死が確認された今、注目が集まるのは、その“遺産”の行方だ。

「彼の作った企業グループが誰のものになるのかは、未知数(みちすう)です。戦闘員の中には、プーチンを恨む人間(うらむにんげん)も出てくるので、簡単に政府の統制下には入らない。そもそもワグネルはプリゴジンの作った巨大企業体コンコルドの一部門。飲食や情報産業など多くの分野に進出していて、統制は容易ではない」(同前)

 ワグネルを取材してきた在仏ジャーナリストの広岡裕児氏が話す。

「ワグネルは中央アフリカやマリなどに強固(きょうこ)な地盤(じばん)があります。地元政府の軍事顧問を務め、莫大な(ばくだいな)利益を得てきました。報酬が現金でもらえない時には、鉱山の開発権を取得。アフリカなどの資源に関して、2022年までの4年間で約360億円の利益をあげたとの試算もありますが、氷山の一角(ひょうざんのいっかく)でしょう」

 このビジネスも“悪のカリスマ”であるプリゴジンだからこそ管理できていた現実がある。

「プーチンやその取り巻きのオリガルヒ(財閥)が、取って代われるかといえば難しい。ロシア国内やウクライナ、アラブ圏の利権は奪えても、アフリカまで手を伸ばせるかといえば疑問が残ります。傭兵たち(ようへいたち)には愛国心などみじんもありませんので、各国にいるワグネルが独自に新しい雇用主を見つけることもありうる。プリゴジンの子分のアレクサンドル・イワノフが率いる中央アフリカのワグネルは、今年7月に武装勢力の襲撃から逃がれた中国人労働者を保護した。その実力を知った習近平が、ワグネルの新しい“親分”になる可能性もある」(同前)

 プリゴジンの遺産争奪戦(そうだつせん)は始まったばかりだ。