THIS WEEK「国際」 牧野 愛博(まきの よしひろ) 2023/11/30

記念日制定、夕食会にも同席 北朝鮮後継者はミサイルと共に

 北朝鮮は22日、軍事偵察衛星「万里鏡1号(ばんりきょういちごう)」の打ち上げに成功したと発表した。北朝鮮メディアは衛星が米空母などの写真を撮影したと主張するが、日本政府からは衛星周回軌道に乗る速度に達していないという指摘がある。韓国の情報機関、国家情報院も23日、地上解像度(かいぞうど)が十分ではないため、軍事偵察衛星として価値がないと説明した。

 散々な評価を浴びた北朝鮮の衛星だが、航空幕僚長(こうくうばくりょうちょう)を務めた片岡晴彦(かたおか はるひこ)日本宇宙安全保障研究所副理事長は「侮れない(あなどれない」とは、馬鹿にできない、油断できない)」と語る。

「今回の発射の最大のポイントは、北朝鮮が衛星軌道に予定通りに衛星を投入できるかどうかだった。衛星はダミー(dummy)でも良いくらいだ」

 衛星軌道に正確に投入できる能力を持つことは、ASAT(衛星攻撃兵器)の保有につながるからだ。投入した衛星を自爆させてスペースデブリ(宇宙ゴミ)を作れば、同じ軌道にある他の衛星を妨害できる。

 今回の衛星は地上500キロ程度の低軌道に打ち上げられたが、実験を重ねれば同3万6000キロの静止軌道への打ち上げも可能になるだろう。そこには、赤外線センサーを使って北朝鮮など世界のミサイル発射を監視している米DSP早期警戒衛星がいる。北朝鮮が米衛星の破壊に乗り出せば、日米主導の弾道ミサイル防衛の深刻な脅威になる。

キム・ジュエ.png

 一方、北朝鮮は23日夜、衛星発射成功を祝う夕食会を平壌(ピョンヤン)で開いた。そこに金正恩総書記と一緒に登場したのが、キム・ジュエと呼ばれる娘だった。推定年齢10歳で正恩氏の長女とみられているジュエ氏は、おそろいのNASAならぬ「NATA(国家航空宇宙技術総局)」と書かれたTシャツ姿で、出席者らと交歓した。

 彼女は昨年11月18日、北朝鮮が大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星17」の発射実験に成功した際、初めて公式の場に姿を現した(あらわした)。それから数えて17回目の登場で、うち軍関連の行事が16回を占める。北朝鮮は今月、その11月18日を新しい記念日「ミサイル工業節」に制定した。

 金日成主席のフランス語通訳を務めた韓国統一相特別補佐の高英煥氏は「ジュエ氏は、後継者候補の一人で間違いない」と語る。北朝鮮メディアはNATAのTシャツ姿のジュエ氏を「尊敬するお子様」と呼んだ。過去、名前に修飾語がついたのは最高指導者とその後継者しかいない。

 脱北(だつきた)した元朝鮮労働党幹部は「早くから公式の場に出して、国民に認知させる狙いがあるようだ」とも語る。時間が経てば、「ミサイル工業節」は「ジュエ氏が初めて現地指導した日」に改められるかもしれない。