土屋賢二 ツチヤの口車 第1362回 2024/10/19

ノーと言えない男

 結婚に魅力を感じない女性が増えている。少子化の日本には問題だ。結婚評論家の曽野徹(その  とおる)氏に聞いた。

――結婚すると自由がなくなるからイヤだという意見が多いのですが。

「その通り。事実、自由は貴重だ。歴史上、命をかけて自由を守った人もいた。だから結婚はもちろん、ルールで自由を奪うスポーツやゲームもやめ、道路の信号や標識(ひょうしき)も無視すべきだ。信号を無視して危険を感じたら、自由を守るために命を落とした偉人を思い出せ。もともと、われわれの自由は制限されている。眠らない自由はないし、食べない自由も呼吸しない自由もない。食べられる物も限られ、空も飛べず、指は5本しかない。慰めを求めてペットを飼うとさらに自由が奪われる。これだけ四方八方から自由が奪われているのだから、結婚して自由を奪われても大した違いはない。気にしないことだ」

――似た意見で、結婚すると何事も思い通りにならないという声もあります。  

――相手がどんな人間か分からないから結婚に慎重になる人もいます。人格破綻者(じんかくはたんしゃ)かもしれませんし。

「その通り。欠点がない男を探すべきだ。ほとんどいないが。万一キリストのような完璧な人格者と結婚できたら、毎日軽蔑(けいべつ)の目で見られ、憐れみや慈愛の目で見られるから、人格は向上する。そうすれば『人格が3割ほど破綻しているぐらいがいい』という堕落した考えを捨てられる」

――結婚より推し活があればいいという女性もいます。

「その通り。イケメンで脚が長く、腹も出ておらず、フラれる心配もない。家事などしなくていい。一緒に暮らすとアラが見えるが、舞台上ではアラは見えない。見えないなら、ないのと同じだ。しかも相手は批判しない。『お前、最近いびきがひどくなったよ。口臭(こうしゅう)もきつくなったから医者に診てもらったら?』などと口うるさく言うことがない。推し活は、泥臭い(どろくさい)生活を取り去った上澄みなのだ。それに比べ、現実の生活は泥臭い。喜びも悲しみも共にし、子どもを育て、助け合う家族など泥臭すぎる。自分がこれ以上泥臭くなるのはだれだってイヤだろう」

――結婚直後はウマが合っても時間がたつと価値観が違ってくるから、一生をともに過ごすことはできないという意見もあります。

「その通り。だから相手に合わせるには我慢が必要だ。男に我慢させればいいから問題はないが。ふつうの夫婦は、歳を取って相手が杖(つえ)代わりに必要になるまでは、部屋を別々にして、別々の行動をするなど涙ぐましい工夫をする」

――最後に一つ。結婚すると苦労が増えますよね。

「その通り。苦労したいなら結婚すべきだ。結婚しなくても同じぐらい苦労はするが。ただ、苦労は買ってでもせよというのは嘘っぱちだ。登山やスポーツなど、苦労があるから面白いという者もいるが、ヒネクレすぎだ。手を開いたり閉じたりするだけのことが面白くなければ心が汚れている」

――ところで先生はご結婚されているんですか?

「その通り。52回目だ。結婚によって人格は極度に錬磨され、ノーと言えない男になった」

――ではこの取材の謝礼はいらないんですか?

「その通り。いらない。払ってもらうまで出口の鍵を開けないからね」

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