ことばに責任をもつ候補者|土屋賢二 ツチヤの口車 第1388回 2025/04/26

 家庭を平和に保つことがいかに大変なことか、皆様お分かりのことと思います。市会議員に立候補したこの木田君(きだくん)もその一人です。

 彼が身を粉にして働き、夜遅く家に帰ると、彼の妻は家が狭い、ほしい宝石が買えないなどと愚痴をこぼし、そのたびに彼は謝りました。奥さんは友人との高級ランチなど、贅沢を尽くした挙句、男を作って家を出て行ったのです。

 これはときどき見られる出来事かもしれませんが、その後が違います。離婚を告げられたとき、彼の目に涙はありませんでした。むしろ喜んだのです。妻の愚痴から解放されたからではありません。喜色満面でこう言いました。「やっと妻を幸せにすることができた」と。結婚式で「幸せにする」と誓ったことをずっと気に病んで(やんで)いたのです。

 しかもこのとき彼は愛人を3人もち、それぞれにマンションを買い与えていたのです。いずれも、酔った勢いで「幸せにする」と言った女性です。これほど自分のことばに責任をもつ人がいるでしょうか。

 彼には欠点もあります。酔うと、眠っている間に大小便のそそうをすることがあり、よく犬のせいにしていました。そのために大型犬を飼ったのです。しかし犬の不始末の5回に1回は彼の不始末として奥さんから叱責(しっせき)されていました。

 彼は歴史を愛する男です。100年前に建てられた市庁舎に、自分の名前をナイフで刻みました。歴史に名を刻んだつもりになったんでしょうか。先日も50年前に刻んだ自分の名前の下に、新たに名前を刻みました。その後にわたし、本田といいますが、線を1本つけ足して木田を本田にしています。彼はなぜ名前を刻むのか、自分でも悩み、精神科の診察を受けたこともあります。嘘だと思うなら精神科の待合室の椅子を調べれば、彼の名前が見つかるはずです。その後1本足して本田になっていますが。

 高校のとき、修学旅行の積立金(つみたてきん)が盗まれたことがあります。盗難が発覚する2日前に彼がドアノブや金庫などを懸命に拭いているのが目撃されました。このとき彼は「掃除したいという意識に目覚めた」と答え、その後毎日掃除をするようになりました。事件は迷宮入りしましたが、もし彼が犯人なら、あちこちに名前を刻んでいたときの指紋も消して回っていたのです。彼の犯行だと疑う者もいましたが、熱心に卒業まで1日も休まず掃除に打ち込んだため、彼は疑惑の人というより、律儀な男、筋を通す男として知られるようになりました。自分の主張に辻褄を合わせるよう行動する男なのです。おかげで金庫のある校長室の掃除番だったわたしは卒業まで掃除を免れました。

 卒業後、わたしと彼は同じ会社に就職しましたが、その会社の金庫から多額のお金が盗まれました。わたしは金庫係でした。彼はここでも、どこにも指紋が残らない程に社内を掃除していたため疑いがかけられましたが、掃除好きだからだと言い張りました。それでも疑う者がいることにいらだった彼は会社を辞め、掃除の会社を立ち上げました。

 掃除の会社は指紋一つないピカピカの仕上がりが評判となり、躍進を遂げました。その矢先、その会社の金庫から多額の金が消えました。そのときの会計係は転職直後のわたしでした。

 いまほど政治家のことばが軽くなっていることはありません。ことばに責任をもつ彼こそ市政を任せるにふさわしい人物です。

 ふだん無責任なことしか言わないわたしだからこそ彼の律儀さが分かるのです。わたしは高校のときに解錠研究会の会長として活躍、その上、幾多の実績もあげてきました。今後も彼の律儀さを証明できます。