ツチヤの口車 第1329回 土屋 賢二 2024/02/17

大谷選手と瓜二つ

うりふたつ 1【瓜二つ】(形動)二つに割った瓜のように,形がよく似ているさま。「顔が母親と―だ」

大谷翔平選手はいまや世界のスーパースターである。疑問に思っていることを教え子に聞いた。

「大谷選手のような並外れた能力の持ち主に憧れる気持ちは分かる。だが彼とは大違いなのに、まるで自分のことのように自慢する者がいるのはなぜだ?」

「憧れの人との共通点を探してつながりたいからじゃないですか? 日本人だとか出身地が同じなら自分も特別だと思えますから。大谷選手の親戚なら完全に自慢になります」

「自分の母方の祖母の姪の孫の結婚相手の従弟の息子が大谷選手でもか?」

「複雑すぎます。自慢はするでしょうが」

「大谷選手となると、かすかなつながりでも自慢するくせに、軽蔑する人物には何のつながりも接点もないかのようにふるまう」

「当然です。わたしも先生に教わったことは内緒にしていますから」

「なぜだ? 自慢に聞こえることを恐れているのかもしれないが、事実なんだから堂々と言いなさい。さて、わたしは大谷翔平と見た目が違うことは認めよう」

「エラそうにおっしゃってますが、月とスッポンです。太陽とダニです。ダイヤモンドとゴキブリです。そろばんのチャンピオンとマグロのそろばん能力ぐらい違います」

「もう終わった? 続けるよ。野球の能力がわたしより優れていることもいさぎよく認めよう」

「認めなくてもかまいません。蚊が『いさぎよく認めるが、象の方がおれより重い』と言ってもだれも相手にしませんから。それに、違うのは能力だけじゃありません。大谷選手は若いし、大富豪だし、紳士だし、全生活を野球に捧げています。先生はゴミを拾いますか? トンカツを衣を外して肉だけを食べるようなストイックなところが先生にカケラでもありますか?」

「シソがまぶしてあったら全部取り除いて食べている。その他、生き方が違うことは認めよう。それ以外にも、わたしは大谷選手よりも哲学を知っている点で違うことも認めよう」

「哲学を知らない方が賢いような気がしてきました」

「わたしには恩知らずの教え子がいる点でも違うことを認めよう」

「恩の押し売りはやめてください。迷惑です」

「以上を認めた上で断言するが、これらの細かい違いを除けば、わたしは彼にそっくりだ。瓜二つだと言ってもいい」

「えーっ! 先生、頭がおかしくなったんですか? 第一、『細かい違い』じゃありません。人間の格を決定する根本的な違いです。しかも違いを除いた後には何も残りません。違いしかないんだから」

「それは言いすぎだ。頭が一つ、顔が一つ、目が二つあることは同じだ」

「でも顔の大きさも目鼻立ちもまったく違います。天と地、月とスッポン、太陽とダニ、ダイヤ……」

「その違いを除けば、頭も顔も一つ、目も耳も二つという点ではそっくりだ。違いを除いているんだから、残りは全部同じはずだ。母親から生まれて、いま生きているのも、学校に行ったことも、日本語を使うことも、幽霊ではなく、山でも海でも納豆でも複素数でもない点もそっくり、一キロ先までボールを飛ばせないのもそっくりだ。こうして挙げていくと、そっくりな点は無限にある。瓜二つと言っても過言ではない。幸か不幸か、同様にしてわたしと君は瓜二つだ」

「間違いです! 論理的感情的にありえません」

「そうなの? でも君はマリリン・モンローともオードリー・ヘップバーンとも朝青龍とも瓜二つなんだよ。マザー・テレサともキューリー夫人ともキュウリとも瓜二つなんだよ」

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