「週刊文春の方からご連絡が…」|藤田晋(ふじた すすむ)
サイバーエージェント社長 藤田晋のリーチ・ツモ・ドラ1 第1回 藤田 晋 2024/05/08
「週刊文春の方からご連絡がありました…」
私のスマホに通知された、広報担当者から来たメッセ(フェイスブックのメッセンジャーアプリ)の冒頭を見て、過呼吸かというほど心臓がバクバクと鳴った。
もちろん文春砲を浴びるような後ろめたいことがあるわけではない。いや、全くないとは言えないかも知れない。不安を感じている心当たりが具体的にあるわけではないけど、24年も上場企業の社長をやっているのだから、過去にあった何かが問題になっても不思議ではない。同じような創業社長の中では相対的にスキャンダルリスクはマシなほうではないかと自負はしているものの、やっぱり何かはある気がする。怖い。
そもそもスキャンダルが全くない人なんているのだろうか。民間人でもよく政治家を痛烈に批判する人や、自身の政策についての考えを披露する人をお見かけする。その中には本当に惚れ惚れするような優秀な人もいて、「だったら〇〇さんが立候補したらどうでしょうか?」なんて言いたくなるけど、ほぼ全員と断言できるほど、「いやー、俺はスキャンダルあるから」と辞退してしまう。立派そうに見える人でもみんな、何かしらスネに傷を抱えているのだろう。だから私もいつか何かあるかも知れないけど許してほしい。
ところで冒頭の広報担当者からのメッセ、とにかく女性問題だけはやめて。そんな祈るような気持ちで恐る恐るスマホを開くと、文春での連載のオファーだった。
事故を未然に防いだ(ふせいだ)ような気分でホッと胸を撫で下ろし、本文をよく読むと、楽天の三木谷さんの連載が終了したので後釜(あとがま)でどうか、という話らしい。
24歳の起業から26年
小学生の頃には将来の夢に「作家になりたい」と書いていたくらいだから書くことは好きで、会社を創業した頃からずっとこまめにホームページやブログ上に日記のようなものを書いていた。本も自分で執筆したものを何冊か出しているし、日経や朝日新聞で連載をしていた頃もあった。近年はそういう真面目な連載にも飽きてしまって、「近代麻雀(まーじゃん)」という漫画雑誌や、スポーツ新聞の競馬欄で連載したりもしていた。
それらも終了し、コロナ中にはインスタグラムに「ワインインスタ」と称してその日飲んだワインボトルの写真を載せては、そこに全然ワインと関係ない日々の気づきやぼやきや愚痴などをつらつら書いていたら、意外と人気になって、人気になったことが理由で更新しづらくなってしまった。社員も7000人を超える規模になって、様々な影響を考えるとSNSで発言するというのは気を遣うものだ。でも日々頭の中で悶々(もんもん)と考えていることを掃き出す場所がなくなってしまった。
そんな時にこのオファーをもらったので、引き受けさせてもらうことにした。
とはいえ、前任の三木谷さんの「未来」のように読んで勉強になることは書けないので、等身大の日々の徒然を書かせてもらおうと思う。
私は今年5月で51歳になる。24歳でサイバーエージェントを起業して、もう26年間ずっと社長をやり続けている。上場したのもネットバブルの絶頂期だった2000年だったので、当時はどこに行っても断然の最年少で、年齢を聞かれて答えると、「若いね〜」と必ず言われるのでそれが嫌だった(いやだった)。
それが今では、経営者の集まりに行っても自分が一番年上であることがざらである。若い女性から年を聞かれて、「50歳です」と答えることにはやや抵抗を感じるようになった。50歳と言うと、決まりごとのように「えー、若く見えますぅ」と言ってもらえるのだが、逆にそれで50歳というのがなかなかの年齢だということを実感する。しかし、自分が若い頃には50歳にもなったら中身も相当老け込んでいるだろうと想像していたけど、実際には、驚くほど頭の中身が変わらない。都会に住んで若い人を対象とした商売をやっているからかも知れないけど、今も普通にゲームに夢中になり、流行りの音楽を楽しみ、相変わらず美女に目を奪われている。
一方、身体の方は着実にガタが来ている。日々の酒の飲み過ぎを要因とした様々な不調については追々ここでも触れていこうかなと思っているけど、先日、「老」という言葉が嫌で避け続けていた老眼鏡をついに買った。役員会で同世代の役員から、近くが見えないのに無理しているとどんどん視力が落ちるという話を聞いたからだ。一日10時間以上スマホなどのデバイスを見ている身としては、心当たりしかない話だった。
連載タイトルへの思い
話が逸れた(それた)けど、私は「趣味が渋滞している」と自分で言っているほど趣味が多い。小学生の時は将棋をやっていて、地元福井の県大会で優勝したこともある。将棋は伸び悩んだけど、その後始めた麻雀では、2014年にプロも参加する麻雀最強戦で優勝した。それがきっかけで、麻雀のトッププロを集めて「RTDリーグ」を主催、自らも選手として参戦していた。その後、麻雀の「Mリーグ」を立ち上げ、現在はチェアマンを務めている。
サイバーエージェントの子会社が運営する雀荘「オクタゴン」
あとJ1リーグのFC町田ゼルビアのオーナー兼社長で、競走馬約90頭を所有する馬主でもあり、毎週、週末になると手に汗を握り、心拍数(しんぱくすう)を上げながらサッカーの試合と競馬のレースを交互に見守っている。
仕事でも、インターネットTV「ABEMA」で将棋、麻雀、サッカーを中継しているし、「ウマ娘」という競馬をモチーフにしたゲームを提供していたりするので、どこまでがプライベートでどこからが仕事だかよく分からない日々だけど、この連載は気負うことなく等身大で綴るつもり。タイトルの「リーチ・ツモ・ドラ1」は、運よくツモって裏ドラが乗れば満貫になるなくらいの控えめな手で、いきなり役満や跳満を狙うわけではなく、謙虚に一歩ずつ、という思いを込めている。
(ふじたすすむ 1973年福井県鯖江市生まれ。97年に青山学院大学を卒業。98年にサイバーエージェントを創業し、2000年には史上最年少社長(当時)として東証マザーズに上場。現在は、インターネット広告やゲーム、メディアなど多角的に事業を展開している。)