夜ふけのなわとび 林 真理子 2024/05/24
見出しについて
最近の女性週刊誌のスターは、なんといっても愛子さまであろう。
「女性自身」や「女性セブン」のカラーグラビアは、愛子さまのファッションが占めるようになった。お召しになっているのは、ごく普通のものであるが、すごい気品が漂う。オーラといってもいい。
「生まれついての皇族の方は、こうも違うものだろうか……」
と感嘆してしまうのである。
美しい佳子さまももちろん人気があるが、秋篠宮家ということでちょっと損をされているような。この頃、一般週刊誌(文春とか新潮)の紀子さま批判が目につき、私は胸を痛めているのである。
思えば眞子さんは、本当に罪なことをなさったものだ。あれ以来、ご実家には暗雲(あんうん)がたれこめるようになったのである。
眞子さんと小室圭氏との騒動の時、
「好きな人と結婚して何が悪いか」
と主張している文化人がいた。それは確かに正しい。一般人なら、という注釈つきで。やはり皇族の方は、許されることと許されないことがあるのである。それはつらい運命であろうが、それを幼少の頃から言いきかせ、教育するのが宮家のつとめではなかろうか。
“正しいこと”をなさるのはいいが、おかげで皇室ファンのおばさんやばあさんの心は、かなり離れてしまった。不届きな輩(やから)が、本当に失礼なことをSNSに書き込むようになった。私は残念でたまらない。
悠仁(ひさひと)さまだって、そろそろマスコミで騒がれてもいい頃。切れ長の目を持つ、イケメンプリンスとして、ぜひグラビアに載っていただきたい。お父上の秋篠宮殿下は、「素敵な次男坊」として、人気者であった。大学に入るまで遠慮しているのかもしれないが、今、マスコミが悠仁さまご本人はまるっきり無視して、書かれるのは進学先がどうのこうのということばかり。秋篠宮家ももっとちゃんととり上げて欲しいと、せつに願う私である。
ところで雅子さま、愛子さま、佳子さまといったラインアップに、もう一人が加わるようになった。それはもちろん“真美子さま(まみこさま)”である。毎週のように女性週刊誌の大きな見出しとなり、グラビアに出てファッションがとり上げられる。そしてやんごとなき方々と同じように、何をしても誉められる。
チャリティーイベントの時に真美子さんが着た、袖がシースルーの黒のジャケットと黒いパンツは、絶賛の嵐だ。ただそれを強調するあまり、他の奥さまたちを、やや揶揄するような表現は失礼だと思う。
ドジャースの選手夫人たちは確かに派手(はで)。ドレスも肌の露出が多い。胸が半分見えそうな方も。みんなアメリカン・ガールの延長という感じ。しかし、かの地の陽光と空気の中では、あれは大いに映えるのではないか。華やかなドレスや、肌を見せる着こなしも、ひとつのアメリカ文化だと考えられないか。真美子さんも素敵だけれど、他の奥さんたちも素敵。やはりメジャーリーグの選手が選ぶだけのことはある。
“ら”が消えた
さて話は替わるようであるが、記事の見出しの印象操作ってイヤですよね。先々週号の週刊文春、真美子さんの記事であるが、
「デコピンに『NO!!』、親族にウソ」
《「でこ」は額のこと》相手の額を、中指で強く弾くこと。
という見出しを見てびっくりした人もいたに違いない。
「デコピンいじめて、真美子さんって、そんなにイヤな人だったの?」
しかしよく読んでみればどうということはない。デコピンと散歩している真美子さんが英語で「No」と叱った。大谷選手との交際を親族にも隠していた、ということではないか。この見出しって、本当に作為がある。
真美子さんの話の後で、私のことをネタにするのは恐縮であるが、昨年の夏から秋にかけては、奇妙な見出しがいくつもあった。
当時はどんな会議をしても、情報がマスコミにダダ漏れになった。何が起こっても大きなニュースになる。ある時、会議でイジメに関する報告があった。それを読み上げているのは担当の部長である。するとまず、テレビのネット記事が、
「林真理子理事長らが、イジメはないと報告」
と見出しをつける。私は後ろの席に座っていただけであるが、“ら”をつけることで、その報告者の一団ということになった。ここまではまぁ許容の範囲としよう。
が、この“ら”が消されるのは不思議であった。すぐにネットニュースに見出しがでかでかと載る。
でか‐でか の解説 [副]並はずれて大きく目立つさま。「新聞に—と載る」
「林真理子理事長が、イジメはないと報告」
するとすごい勢いで、私への罵詈雑言が襲いかかる。“ら”は、いったい誰が、どういう権限で消すのか本当にわからない……。
ばりぞうごん【罵詈雑言】 あらん限りの悪口を並べ立てて、きたないことばでののしること。
嫌なことを思い出してしまった。まぁ昔からいろんなめに遭ってきた私。これはまだ世の中にネットというものがなかった呑気な時代のこと。
有名建築家の黒川紀章(くろかわ きしょう)氏と対談をすることになった。光栄なことであるが気がすすまなかったのは、載る雑誌が「微笑」という、もうなくなっているが、かなり品のない、セックス記事満載の女性雑誌だったからだ。
「大丈夫ですよ。対談の内容、全部チェックしてください」
と黒川氏から言われ、対談にのぞんだ。話題はいつしか、黒川氏が設計し、六本木に出来たばかりの六本木プリンスホテルのことに。女性の水着を眺めるかのような、水槽のようなプールがあったことで知られる。サービス精神過剰の私は、すぐに調子にのってペラペラ。
「このあいだAさん(黒川氏もよく知っている建築家)と、ここで食事したんですよ、そしたら彼が、客室をちょっと見ませんか、と言うので、上の階に行き廊下をひとまわり見学しました。まぁ何もなかったですが(笑)」
そうしたら半月後、新聞広告にでかでかと見出しが。大きな文字が目に入る。
「林真理子『夜のホテルで何もしなかったあの男』」
こんなめにばっか遭ってきた私です。