林真理子 夜ふけのなわとび 第1865回 2024/11/15
国難に向けて
昨夜は眠れなかった。
トランプ氏が大統領選に勝利したからである。ウクライナの今後、ガザ地区の終わりの見えない地獄を考えて、目は冴える(さえる)
それにしても、と私は考える。政治家の方たち、年々小粒になっていやしないだろうか。経歴を見ても、政見放送を聞いても、
「大丈夫だろうか……」
と思うような方がいっぱい。
が、選挙区で落ちても、比例というセーフティネットがある。それでも3期、4期とやっていけばそれなりのポストを与えられ、大臣にだってなる。
かねがね不思議なのは、常日頃(つねひごろ)、
「政治家なんて信用出来ない」
なんて言っている人も、本人を目の前にするとそれなりに有難がることだ。政治家はどこへいっても特別扱いを受け、センセイ、センセイと呼ばれる。大臣になったりしたら大変だ。それこそもう大変な権力を手にすることになるのだ。
つい最近、官僚の友人と飲んでいてこんな質問をぶつけてみた。
「初入閣の、まるっきり何もわかってない人がトップに来た時、官僚ってイヤにならないの? またイチから教えなきゃならないのかって」
「それはない、それはない」
彼は手を振った。
「もう僕たちは慣れてるから。それより皆で力を合わせて、大臣に恥をかかせないようにしようってことだけを考えてるかな」
「なるほどね」
その官僚であるが、昔から日本は、政治家は三流、官僚が一流と言われていた。優秀な官僚が国を支えているのだと。しかしこの数年ですっかり様変わり(さまがわり)したようだ。東大の卒業生が霞ヶ関にそっぽを向き、コンサルや商社に行き始めたという。そちらの方がずっと収入がいいからである。
こんなことを言うと、東大を出たからといって、優秀な官僚になるとは限らないではないか、私大で何が悪い——と言う人もいるかもしれない。それは半分あたっているだろうが、やはり日本における最高の頭脳に政治や行政に集中してもらいたいと思う私である。
官僚の“特権”
最近のこと、某省に勤務するA氏が赴任先から帰ってきた。とある海外の都市に3年間行っていたのである。この間、私によく写真を送ってくれた。英語はネイティブ並みの彼であるが、その国の言葉もすっかりマスターしたようだ。
「言語習得と共に、ピアノも徹底的にやろうと思って」
演奏をしている姿も送ってくれた。それ以外に旅行や登山もよくしていたようだ。何でも出来る。ちなみに独身である。
「帰国歓迎会をしようね」
と言ったところ、
「同い齢(よわい)ぐらいの面白い人たちと会いたいです」
ということで、30代から40代の学者やマスコミの人を5人誘った。彼と同じ東大法学部卒の独身の女性編集者も、外資に勤める私の姪もやってきた。
彼女たちに興味を持ったかはわからないが、A氏の体験や洞察力は非常に面白く、座はおおいに盛り上がったのである。
「なんて頭がいい人なんでしょう」
出席者の一人は言った。
「いずれは次官になる人ですよね」
A氏に尋ねたら苦笑いしていた。あまりそういうことには興味がないようだ。
「じゃあ、途中で立候補するの? どこかに移るの?」
「何もまだ決めていません」
こんな優秀な人が民間に行くとしたら非常に残念だ。
私は昔、四谷本塩町(よつやほんしおまち)にあった公務員宿舎に、遊びに行ったことがある。そこに当時は、大蔵省(おおくらしょう)と呼んでいた財務省の知り合いが、一家で住んでいたのだ。あまりにもボロくて狭くてびっくりした。あの頃の官僚の方々は、たとえ貧乏でも自分たちの立案したものが国を動かしていくという喜びや気概があったかも。どうにかしてあの頃のモチベーションを取り戻していただきたい。そうでないと私たち国民が困る。
と、スマホのヤフーニュースを見ていたら、菊池桃子さんがご主人とのツーショットを載せたインスタグラムを紹介していた。とても仲よさそうだ。確かご主人は、次官間違いなしと言われた元エリート官僚。国民会議の委員であった菊池さんにアタックしたらしい。最初はマネージャーも交えて食事に行ったんだとか。仕事が激務のあまり、50過ぎても独身を通していたやり手の官僚に、突然訪れた恋の嵐。そして誰もが憧れていたアイドルを射止めることが出来たのである。
そうか、このテがあった。
国のそういう会合には、知性が売りものの芸能人も委員になることがある。こういう方と親しくなれる。結婚だって出来る。
民間の企業ではなかなか得ることの出来ない特権で、なんとか官僚の方々、頑張っていただけないでしょうか。トランプ政権下の国難(こくなん)は必ずやってくるはずなのだから。