夜ふけのなわとび 第1876回 林 真理子 2025/02/07
記者会見って
混沌(こんとん)を極めるフジテレビ問題。
あの記者会見の始まりを、日大本部で何人かで見た。
「とても冷静には見られませんよね」
常務理事の一人がつぶやく。
「これはおととしのうちとそっくり」
「本当にそうだよねー。私はトラウマになってる」
と私。
「あれはやった人でないとわからないよ。もう吊るし上げにあうわけだからね」
最初の質問者が喧嘩ごしで、
「アンター、嘘ついて。学生に謝りなさい」
と怒鳴りこちらはびっくりした。その質問者はユーチューバーで、こちらを怒らせれば視聴者が増え、投げ銭が多くなる仕掛けと聞きさらに驚いた。
しかしおととし、ユーチューバーはまだほんの少数。たいていはどこかに所属している記者たちであった。
ところがこの1年半の間に、ユーチューバーと呼ばれる人たちは進化(?)して、大量発生していたらしい。そしてフリージャーナリストと称して記者会見に入り込んでいたようだ。
友人からLINEが入る。
「最初の方にあてた2人は、元記者のユーチューバーです。おそらくフジテレビはのっけから混乱させて世間の同情を得る作戦と思われます」
確かに男性の質問者のエラそうなこと、話の長いことといったらない。私は気分が悪くなって早々にテレビの前を離れた。
中には知っている幹部の方もいるのに、こんな風にさらし者になってるなんて……。
その後私は夕方からのバレエヨガレッスンに出かけた。寝っころがって、足を上げたり曲げたりするわけであるが、カズ先生は自他共に認めるネットオタク。スマホを手にずっと解説してくれる。
「このX子さんが、今もいろいろやってるみたいですねー」
「つまりX子さんは、自分を守ってくれなかった会社にこうして復讐をしているわけですよね」
すると「スゴい!」という声があちこちであがった。
「まるで韓国ドラマみたい」
「いちOLでも、こうして会社を潰せるかもしれないんだ」
途中でカズ先生は、みんなが気にしてるでしょうからとテレビをつけた。
「まだやってる!」
夜の9時半であった。確か4時からの記者会見である。ということはもう5時間半行なっているのか。
「トイレどうなってるんですかね」
話題はそちらの方に。港社長は72歳、若々しく見えるがいい年である。他の方も70代か60代だ。誰か倒れるまでやるんだろうか……。
そして夜の10時になったら、15分休憩が入った。そこでテレビを消し、私たちのレッスンメニューは、ややハードな棒を使っての屈伸。これを10時45分までやって、本日のレッスン終了。
「お疲れさまでしたー……」
私たちのバレエヨガレッスンも長すぎると、みんな陰でぶつぶつ言っているが、とてもフジテレビの記者会見にはかなうまい。
うちに帰ってお風呂に入り、髪にドライヤーをあてる時テレビをつけたらまだやっていた。そしてとびかう怒声と、長々とした説教……。心底ぞっとした。日をまたいでやるなんてなんという愚かしさ。
私はここで世の中に言いたい。
ユーチューバーという人たちを、もう記者会見に呼ばない、というのをコンセンサスにしませんか。
それからマスコミに勤める記者たちの、社員教育を徹底してほしい。
記者会見には、必ず時間制限をつける。2時間が上限か。ちなみに日大が行なった記者会見は2時間半だったと、テレビでご丁寧に言ってくれたそうであるが、やった者としてはそこいらが限界と思われる。
そして朝起きると、友人たちからのLINEがいくつか。最後まで見た人が何人かいて、
「あそこまで頑張った、昭和のおじさんたちはエライ」
という声がちらほら。ネットでもフジテレビへの同情論が見受けられるようになった頃、衝撃が走った。
臆測が増えて…… X子さんはフジテレビのA氏に誘われたのではない。中居氏本人から誘われたと、文春の訂正記事が出たのだ。
これによって情勢は大きく変わった。文春への非難が殺到したのである。もう1日早く間違いを正せば、あの記者会見は半分の時間で終わったのではないか、フジの社員は関与していない、というフジの主張は正しかったのではないかと人々は騒いでいる。
私も長いこと仕事をさせてもらっている者として、今回のことはとても恥ずかしい。これだけ人々がSNSを使い、勝手なことを書いている現代。臆測は数が増えると真実になっていく恐ろしさ。
そういう中にあって、ひとつ抜き出た存在が週刊文春であった。部数は落ちているとはいえその存在は大きなものがある。どんなアンチ文春も、ちゃんとお金と足を使って週刊文春が記事を書いているのは知っている。
渦中の人の家の前で、寒さに凍えながら裏取りをするために待っていることも知っている。だからこその「文春砲」で、みなはこわがっているのだ。それがこの誤報では、信頼がガタガタ崩れていくのではないか。
週刊文春、本当によろしくお願いしますよ……。
ところが、ところがである。この訂正によって、フジテレビの立場が逆転したとかそういうことはなく、やっぱりどんどん崩れ落ちていくではないか。
政府はもうフジテレビに広告を出すのはやめると宣言し、放送事業を認可する総務省も動き出しているとか。
なんか凄過ぎる。どんなフェミニストも組合もなし得なかったことをX子さんは果たしたのである。
まさに韓国ドラマ。私はこの頃、かなり怖くなっているのであるが。