池上彰のそこからですか!? 第601回 2024/01/26
自民党の派閥を解消する?
Q 自民党の政治資金パーティーの裏金問題(うらがねもんだい、うらきんもんだい)を捜査していた東京地検に期待していたんすが、国会議員で立件されるのは3人だけ。会計責任者や秘書ばかりが責任を問われるだけでおしまいになるってニュースになってます。どういうことっすか?
A これはメディアの大々的な(だいだいてきな)報道が世論の期待をあおってしまったということなんだな。
Q どういうことっすか?
A 政治資金規正法では、政治資金パーティーで集めた金は、収支報告書で正しく報告することを求めている。それが正しくなかったので問題になった。つまり収支報告書にキチンと書いていれば問題にならなかった。いわば形式犯のようなものだから、東京地検としては逮捕しないで任意で捜査し、容疑が固まった人物だけを起訴あるいは略式起訴するつもりだったと思うよ。
けいしきはん【形式犯】[4] 住居侵入や偽証、駐車違反など、結果に関係なく その行為をしただけで、罪となる犯罪(に問われる人)。 実質犯
じっしつはん【実質犯】[4] 殺人罪・強盗罪などの犯罪(を犯した人)。 形式犯 Q でも、国会議員が1人逮捕されたじゃないっすか。あれから次々に逮捕されるかと思っていたのに。
A あの議員は証拠隠滅に走ったんだ。正直に容疑を認めていれば、起訴されることはあっても、逮捕はされなかった。証拠を隠滅されたら、東京地検としては容疑を固めることができないから逮捕に踏み切ったということだ。愚かなことだったね。
Q それにしても、自民党の派閥って、なんすか?
A 大企業だって、社長派、会長派、あるいは専務派など派閥があるだろう。中小企業の場合は、そもそも社員数が少ないから派閥ができようもない。自民党は議員数が多いので、派閥ができやすい。野党は人数が少ないので、派閥はなかなか生まれない。共産党は、そもそも派閥というか分派活動を禁止している。
自民党の派閥とは、同じ考えの人たちが集まった仲良しグループであり、政策の勉強会であり、選挙で当選できるようにする互助会(ごじょかい)なんだ。もともとは中選挙区制度が生んだとも言える。
Q 中選挙区制度とは、ひとつの選挙区から複数の当選者が出る仕組みのことっすね。
A ひとつの選挙区で複数の当選者が出る仕組みだと、自民党は国会で過半数の議員を確保するために、2人あるいは3人の候補者を立てることになる。すると、何が起きる?
Q 同じ自民党でも選挙区ではライバル同士。負けたら落選するから、いわば敵になるんすね。
A その通り。同じ選挙区から当選した議員は、自民党内でも顔も見たくない相手になる。結局、「あいつとは一緒に行動したくない」と考える議員たちが大勢生まれて、それぞれが仲良しグループを作ることになったんだ。
そうなると、同じ自民党であっても、保守派もいるしリベラルな人もいる。それぞれ似たような考え方の人たちが、仲良しグループとして集まるようになる。これが派閥だ。
Q さらに、自分たちの仲間から総裁を出し、総理大臣にしたいと思うようになるんすね。
議員を育てる互助組織
A 派閥のトップが総理大臣になると、総理と同じ派閥に所属しているというだけで、官僚たちの議員に対する態度が変わってくる。ボスが総理なら、自分も大臣になれるかもしれない。こんな“おいしい”ことがあるので、派閥はなくならなかった。でも、それだけじゃないんだ。
Q なんすか、思わせぶりな。
A たとえば初当選の新人議員は、国会での振舞いの知識がない。どこかの派閥に入れば、先輩議員が、手取り足取り教えてくれるという仕掛けになっている。派閥の中に人気のある議員がいれば、選挙のときに応援演説に来てくれるだろう。
実は派閥は勉強会も開催している。新しい政策を考えるときには、霞が関の役人を呼んでホテルで朝食会を開いたりする。
Q でも、そんなことは派閥がなくたって、できるでしょう? 当選した新人議員たちには党として教育すればいいんだし、勉強会だって派閥単位ではなく党主催にすればいい。
A その通りだな。派閥が政治資金を集めるパーティーを開くのも変な話だ。政治活動に金がかかるのは事実だから、個々の議員が資金パーティーをすればいいのであって、派閥主催でやるのはおかしい。
それに、いまは小選挙区制だから、各選挙区で立候補する自民党候補は1人だけ。ライバルはいないわけだから、わざわざ仲良しグループを作る必要はない。
Q 今後は政治資金規正法も強化しないと国民は納得しないっすよね。
A そうだな。今回の場合で言えば、事務方ばかりが責任を取らされて、議員本人にまで責任追及が届かない。これではいけない。
Q どうすれば、いいんすか?
A たとえばだけど、「連座制」を導入することが考えられる。「連座制」とは、選挙違反事件のときに、選挙運動の責任者が選挙違反で有罪になると、議員本人も議員の職を失うという仕組みなんだ。
Q そうか、そうすれば、議員も政治資金の管理は「秘書に任せていました」という言い訳ができなくなるんだ。
A 政治と金の問題は、ほかにもある。議員には歳費(給与)とは別に月100万円が支給されている。以前は「文書通信交通滞在費」という名称だったけど、2021年の衆院選で初当選した議員が、在職1日にもかかわらず満額支給されたことをきっかけに、一昨年4月に在職日数に応じた日割り支給とする法改正が実現した。名称も「調査研究広報滞在費」となった。でも、使い道を公開することにはなっていないし、お金が余っても返納する定めがない。
Q こんなもの、現金100万円をそのまま渡すなんておかしい。キャッシュレス社会なんだから、月間の使用限度額100万円のクレジットカードを渡せばいいのに。そうすれば使途が明記されるし、使いきれなければ国庫に戻る。これくらい考えないとね。