池上彰のそこからですか!? 第610回 2024/03/29

マイナス金利が解除

Q 理解できないことがあって。

A なんだ、お前は理解できないことだらけじゃないか。

Q そんなこと言わないでくださいよ。日銀(日本銀行)が「マイナス金利を解除した」ってニュースがあったんすが、金利がマイナスになるってどういうことっすか。これまでも銀行に預金(よきん)したら、雀(すずめ)の涙ほどだけど金利がついたじゃないっすか。

A そこで言うマイナス金利とは、一般の人の預金に対する金利のことではなかったんだ。お金を預けたら金利が取られるなんてことになったら、誰も預金しなくなるからな。これは、一般の銀行が日銀に預けるときの金利のことだ。

Q 一般の銀行って、日銀にお金を預けているんすか。

A 学校で、日銀とは「銀行の銀行」だと習ったろう? お前が銀行にお金を預けるように、銀行は日銀にお金を預けている。

Q 何のために?

A これには三つの役割がある。ひとつは、いざというときに備える(そなえる)ため。もしある銀行に対する信用不安が広がって、「銀行がつぶれる前に預金を下ろしておこう」なんて預金者が一斉(いっせい)にお金を引き出したら、銀行が資金不足に陥って、本当につぶれてしまうかもしれない。こういうときに日銀が、この預金を使って助けてくれるというわけだ。そのために、銀行ごとに一定の金額の預金が義務づけられている。これを「準備預金制度」といい、その金額を「所要準備額」という。

Q へええ。いざというときに日銀が助けるんだ。

A 二つ目は銀行同士のお金のやりとりのため。たとえばお前がA銀行の口座からB銀行の口座にお金を振り込むとする。振り込んだお金を、A銀行の人がB銀行まで届けてくれるわけではないよな。銀行間のお金のやりとりは、日銀の当座預金の間で行われるんだ。

 三つ目は、日銀が一般の銀行から国債を買い上げた際、その代金を振り込むためだ。一般の銀行は、これまで不景気だったから、お金を貸し出す先に困り、国債を大量に買っていた。日銀が、この国債を買い上げることで、一般の銀行にお金を渡し、「この金でせっせと貸出先を見つけなさい」とやってきた。これが「国債買入オペ」だ。

Q そうか、よく「日銀が市場に資金を供給」なんてニュースになるのは、このことか。

A おや、理解が早いじゃないか。本来は、当座預金にお金を預けても利息はつかないものだ。少し前までの日銀に関する専門書には、「利息はつかない」と書いてあった。ところが日銀は、2008年11月から所要準備額を超えた金額(これを「超過準備」という)に関して年0.1%の金利をつけている。この年に日銀は大幅な金融緩和を実施して、金利が大きく下がったが、下がり過ぎると「金を貸しても利益が出ない」ということで、銀行同士での資金の貸し借り(かしかり)が細ってしまうかもしれなかった。それを心配して、0.1%の金利をつけたんだ。

すぐには大きな変化はない

A これなら金利は0.1%よりは下がらない。最低ラインの金利水準を設定したんだ。

Q ということは、銀行にすれば、とりあえず日銀にお金を預けておけば、僅かではあっても、利息が受け取れるというわけっすね。

A でも、これでは銀行が努力して貸出先を開拓する意欲が薄れる、というデメリットが生まれた。そこで、日銀の当座預金に余計なお金を預けたままにしていたら、手数料を取ることにした。結果として、日銀に余計なお金を預けておくと金利がマイナスになってしまう形になった。

Q これがマイナス金利か。我々が預金する分ではなく、銀行が日銀に預金する分のことなんだ。

A 景気が悪くなれば日銀は金利を下げる。金利が下がれば、企業は銀行からお金を借りやすくなり、工場を新たに建設したり、社員を雇ったりできる。一般の人も住宅ローンを組みやすくなり、マイホームを建てる人が増える。そうなれば景気回復につながる。これが、日銀が金利を下げる目的であり、こういう行動を「金融緩和」という。

Q でも、どうやって金利を下げるんすか?

A 一般の金融機関は、互いにお金の貸し借りをしている。手元にあまり現金を持たないようにしているので、多額の預金引き出しなどに対応できないことがあるからだ。こうしたお金のやりとりをする場所を「コール市場」という。「金を貸してくれ」「金を返してくれ」と互いにコールする(呼ぶ)からだ。

 この市場で貸し借りをしている銀行の手持ちの現金が増えれば、「金を借りたい」という銀行より「金を貸したい」という銀行の方が増え、低い金利でお金を借りることが可能になるというわけだ。

Q だから日銀は銀行が持っている国債を買い上げ、代金を当座預金に振り込んでいるんだ。

A 日銀は、こうして金利を下げ、ほとんどゼロまで下げた。これが「ゼロ金利政策」だ。でも景気はなかなか良くならない。そこで次は「量的緩和」に踏み切った。これまで以上に国債を買い上げ、当座預金に多額のお金を振り込んだんだ。こうなれば銀行は、「当座預金にムダにお金を積み上げていても仕方がない」と考え、企業に貸し出すようになるだろうと期待した。ところが、それでも貸出額はなかなか伸びない。焦った日銀が、「貸し出しをしないなら手数料を取るぞ」と通告した。これがマイナス金利なんだ。

Q そのマイナス金利をやめても金利が低い状態は続くんすね。だから株価が上がったり、円安の状態が続いたりしているんだ。

A 「マイナス金利が終わると金利のある世界が戻ってくる」としきりに報道があったものだから、日銀は「金融緩和は続けるから心配しないで」とアピールしたんだな。