トランプの「相互関税」とは?|池上彰 池上彰のそこからですか!? 第657回
2025/04/12
Q アメリカのトランプ大統領が「相互関税(そうごかんぜい)」をかけて、日本製品に24%の関税がかかることになったとニュースになってますが、どういうことなんすか?
A まさか、これほどまでとは、と驚いた人が多くて株価も暴落したんだが、まずはどんな仕組みか見ていこう。関税はわかるよな。
Q 馬鹿にしないでください。自国の産業を守るために外国からの輸入品に税金をかけるんすよね。輸入品が高くなれば国内の商品に価格競争力がついて売れるようになるんす。
A そうだな。トランプ大統領の関税政策には2つの意味がある。ひとつは、たとえば自動車に25%の関税をかけたのは、「関税をかけられるのが嫌ならアメリカ国内で自動車を生産しろ」というわけだ。アメリカ国内に新たに工場ができれば、そこで新たな雇用(こよう)が生まれるというわけだ。
もうひとつは、関税の収入が増えれば、国の財政赤字の穴埋めになるという考え方だ。ただし、アメリカの経済学者たちは、新規の関税の総額でも財政赤字を埋めるにはほど遠いと批判している。
Q 自動車や鉄鋼、アルミニウムについては、もう25%の関税がかかっているんすよね。新たな24%は、それに上乗せされるん(うわのせられるん)んですか?
A そうではないんだ。自動車や鉄鋼、アルミは25%の関税だけだ。ただし、これまでも自動車に関しては、乗用車に2.5%、トラックに25%の関税がかかっていた。
Q ということは、乗用車の関税は27.5%、トラックは50%という計算すよね。
A そうなんだ。たとえば400万円の乗用車だったら510万円になるし、2000万円のトラックだったら3000万円になる。
Q これじゃあ、売れないじゃないすか! でも、ほかの商品に24%の関税がかけられるという根拠はなんなんすか?
A トランプ大統領に言わせると、日本はアメリカの商品に46%の関税をかけているから、その約半分の24%をかけるというわけなんだ。
Q 日本はそんなに関税をかけているんすか?
A そんなことないんだ。海外からの輸入品には、品目ごとに関税がかかっているけれど、平均すると3.7%にすぎない。トランプ政権が問題にしているのは、非関税障壁(ひかんぜいしょうへき)だ。
Q なんすか、それは?
A 非関税障壁というのは、関税ではないけれど、日本でアメリカの製品が売れないようにしている仕組みがあり、それを率にすると46%になるという理屈だ。
Q たとえば?
A 消費税が10%だと、アメリカの製品に10%の関税がかかっているようなもんだ、というんだ。
Q でも、日本の製品にだって10%の税金がかかっているんだから、アメリカの製品を狙い撃ちにしたわけじゃないのに。
A そうなんだ。これは無理筋だな。ほかにも日本には自動車に関して独自の安全基準があり、アメリカの車が売れないというんだ。
自由貿易の時代の終焉(しゅうえん)
Q そんなあ。日本の安全基準を満たすようにすればいいだけじゃないすか。そもそもアメリカの自動車には右ハンドルがほとんどないじゃないすか。ドイツ車やフランス車は、ちゃんと右ハンドル車を揃えているのに。
A アメリカが主張している46%という数字は、「ニューヨーク・タイムズ」によると、アメリカが相手国に対して抱える貿易赤字額を、その国からの輸入額で割ったものではないかというんだ。去年のアメリカの対日貿易赤字額は685億ドルで、この数字を輸入額1482億ドルで割って100をかけると、約46になるからだ。
Q そんなアバウトな、いい加減な数字でいいんすか?
A これからは46%の根拠は何かを追及していかなければならない。
Q トランプ大統領や大統領報道官は「日本はコメに700%の関税をかけている」とも批判してましたよね。ホントなんすか?
A これは正確ではないな。そもそも日本は戦後ずっと「コメは一粒たりとも輸入しない」と言ってきた。でも、「GATTのウルグアイラウンド」での取り決めで、輸入を禁止し続けることができなくなったため、1999年度からコメの輸入を解禁。しかし、海外から安いコメが入ってくると日本の農家に打撃になるので、コメ1キロ当たり当初は351円、2000年度からは341円の関税をかけた。
Q そう言われても、どのくらいのことかわからないっす。
A この数字を2001年頃の時点で換算すると778%になる。
Q アメリカが言っているのは、この数字なのかな。
A そうかもしれないな。でも、これだけではない。日本は高い関税をかける代わりに、強制的に無税で一定量のコメを輸入しなければならなくなった。これを「ミニマムアクセス米」という。現在、年間で77万トンを輸入している。このうち34万トンはアメリカからの輸入分だ。
Q 当時は、いまと違ってコメが余っていた時代すよね。それなのに輸入してたんだ。
A このコメが一般に出回ると、米価(べいか)つまりコメの値段が下がる恐れがあるので、農林水産省は、このコメは別に保管しておいて、加工用や家畜の飼料にしている。たとえば煎餅(せんべい)。「国産米使用」と表記してあれば、日本のコメを使っているが、ただ「原材料:米」と書いてあったら、ミニマムアクセス米の可能性が高い。
Q これから世界はどうなるんすか?
A 第二次世界大戦後の「自由貿易促進」という潮流(ちょうりゅう)が、トランプ大統領の出現でストップしてしまった。自由貿易はいいことだという観念は捨てるべきかも。もはや一つの時代が終焉を迎えたと深刻に受け止めた方がいいだろう。