池上彰のそこからですか!? 第658回 2025/04/19

トランプ関税で大混乱

A トランプ旋風に振り回されているよな。それも困ったもんなんだが、実は問題にされているトランプ大統領の言動があるんだ。

Q ほかにもあるんすか?

A 発表のタイミングなんだ。トランプ大統領が相互関税の追加を停止すると発表したのはアメリカ東部時間の午後1時18分。ところが、それより約4時間前の午前9時37分に自身のSNSに「絶好の買い時だ!!! DJT」と書き込んだんだ。

Q DJTって、なんすか?

A これはトランプ大統領の名前の頭文字でもあるんだが、自身のSNS「トゥルース・ソーシャル」を運営するトランプ・メディア・アンド・テクノロジー・グループの株式市場の銘柄(めいがら)コードでもあるんだ。

Q つまり、株価は暴落しているけど、ここまで下がったら、むしろ株を買っておくチャンスだよと自分のイニシャルで呼びかけたようにも見えるけど、自身のSNSの運営会社の株を買う絶好のチャンスだと投資家に呼びかけたのかもしれないというわけっすか。

A DJTの株価は、9日の取引開始時(かいしとき)には16ドルちょっとだったんだが、追加関税の90日停止の発表後の終値(おわりね)は20ドルを超えていた。まともな政治家なら株式市場に影響が出ないように、取引時間中はコメントを控えるもんなんだが。

Q これって凄い値上がりというわけっすよね。トランプ大統領の呼びかけに応じて株を買った人は大もうけ(おおもうけ)したんだ。

A トランプ大統領は、追加関税停止を発表すれば株価が上がることがわかっていたから、計画的に株価操縦(そうじゅう)をしたかもしれないんだ。

Q ということは、トランプ大統領も儲けたんすか?

A トランプ大統領は、この会社の株の65%を持っている大株主(だいかぶぬし)だ。だから大儲けしたはずだが、大統領になると自由に売り買いすることができないルールになっている。大統領を辞めるまで信託に預けておくことになっているんだ。

Q それなら問題ないんすね。

A 実はトランプ大統領が持ち株を預けた信託は、トランプ大統領の長男のトランプ・ジュニア氏が管理しているんだ。

Q ってことは、父親のSNSへの投稿は、息子に「株を買っておけ」というメッセージになっていたのかもしれないんだ。

A トランプ大統領のSNSの会社の株だけでなく、一族に対して、「いま株を買っておけば儲かるぞ」というメッセージだったのかも。

Q 大統領は自由に政策を決められるから、儲け放題(もうけほうだい)じゃないすか。大統領の任期を終えた後、資産はたっぷり増えていたということになるかもしれないんすね。

デタラメだった相互関税の計算式

Q トランプ氏にとっては大統領になるのは一大ビジネスチャンスなんだ。株価暴落で右往左往(うおうさおう)している人もいるのに。トランプ政権が日本にかけると発表した追加関税は24%だったけど、この計算式がデタラメだったことも明らかになったんすよね。

A そうなんだ。トランプ大統領が発表した相互関税の税率は、「輸出額から輸入額を引いた数字」を分子に置いて、「輸入額に2つの指数(しすう)をかけた数字」を分母に置いた計算式で算出されたと発表されていた。難解なギリシャ文字を使ってだ。

 これで計算すると日本の場合は46%になるから、その半分の24%を日本の商品にかけるという発表だった。

Q 46%の半分は23%じゃないすか。ここでもう計算がおかしい。

A ところがアメリカのシンクタンク「アメリカン・エンタープライズ研究所」が関税率を計算し直したところ、トランプ政権の担当者が計算を間違えていることに気づいたんだ。2つの指数のうち、関税を課した場合の輸入価格の変動を表す数値を政権は「0.25」と発表していた。ところが、代入すべき正しい数値は「0.945」だというんだ。

Q どうして、そんな間違いを?

A 本来は輸入価格で計算しなければならなかったのに、誤って小売価格で計算したとみられている。

Q ということは、正しい数値にすると、分母(ぶんぼ)の値は約4倍になるから、計算式で出てくる数字は46%の4分の1近くに下がる。その半分ということは、10%を切ってしまう。ただ、基本税率として一律10%はかけるつもりということだから、いずれにせよ日本にかけるべき関税率は10%に過ぎないじゃないすか。

A そもそもこの計算式には意味がないんだ。トランプ政権は「日本にはアメリカの製品が売れないようにしている非関税障壁(しょうへき)(関税ではない障害)があるから、それを加味(かみ)した相互関税をかける」と発表していたんだが、この計算式は、単に貿易額と商品価格だけを問題にしていて、非関税障壁を数値化しようとしていないんだ。

Q なんだ、意味のない数式をめぐって、「代入する数字を間違えた」と指摘しても意味がないんだ。で、これからどうなるんすか?

A 追加関税をかけるのを90日間停止すると決めたのは、世界中で株価が暴落したのを見て狼狽(ろうばい)したからではないかという見方があるけれど、トランプ流ディール(取引)の真骨頂(しんこっちょう)だという見方もある。

Q トランプ政権は、「相互関税をかけると発表したら、各国が交渉を申し入れてきたので、大統領が各国と個別に交渉するように指示した」と発表しているっすね。これが、トランプ大統領の狙いか。

A これからトランプ政権は各国に無理難題を吹っ掛けてきそうだ。