町山智浩の言霊USA 第738回 2024/09/14

Every single job was taken - about 107 percent - was taken by illegal immigrants!

(すべての仕事の107%は不法移民に奪われている!)byドナルド・トランプ前大統領

 11月のアメリカ大統領選の投票日まで2カ月。カマラ・ハリス副大統領の支持率は絶好調。このままならトランプに圧勝する。

 この不利な状況にトランプは焦りに焦っており、「カマラ・ハリスがアフリカ系だとは知らなかった」を超えるデタラメな言動をエスカレートさせている。

 8月27日、NBCテレビに出演したトランプは2020年の大統領選挙で「自分はカリフォルニア州で本当は勝っていた」と言い出した。

「今度の選挙でももしイエス・キリストが投票集計係(とうひょうしゅうけいがかり)をしてくれたら、私はカリフォルニアで勝つだろう」

 キリストが票を数えるの?

「つまり、投票集計係が本当に誠実だったらという意味だ。カリフォルニアには私の支援者が大勢いる。特にヒスパニックの人々から人気がある」

 これにはまったく何の根拠もない。2020年の大統領選でカリフォルニア州でのバイデンの得票数1100万以上に対してトランプはわずか600万。その差500万票はイエス様だってどうしようもない。ましてやヒスパニックについては「レイピスト」「人殺し」と決めつけていたトランプをヒスパニックが支持するわけがない。トランプがヒスパニックから得た票数はバイデンの約半分だった。

 デタラメはさらに加速する。8月29日、接戦州ミシガンのポッターヴィルの支援者集会で、トランプは「カマラ・ハリスはサンフランシスコを破壊した」と言った。

 ハリスはサンフランシスコで2003年から2010年まで地方検事を務めた。その間、別に大きな問題は起こっていない。コロナ禍以降(いこう、サンフランシスコはホームレスと犯罪の増加が問題になってはいるが、その時期、ハリスは副大統領になっているのでまったく無関係だ。

 だからトランプが何をもって「破壊した」と言ったのかまるでわからない。だが、トランプはそれを「私はひどい扱いを受けている」という話につなげた。どうつながるのか全然わからないが。

「リンカーンもひどい目にあった。トマス・ジェファーソンもだ。いちばんひどい扱いを受けたのはアンドリュー・ジャクソンだ」

 この「ひどい扱い」の意味もわからない。リンカーンは暗殺されたが、ジェファーソンもジャクソンも老後は平穏だった。後世、批判された、という意味なら、確かにジェファーソンは自分が愛した黒人奴隷を内縁の妻にしていたし、ジャクソンは先住民のチェロキー族やセミノール族の土地を奪ってオクラホマの荒野に強制移住させたことでレイシスト認定されている。だが、リンカーンは黒人奴隷の解放者として尊敬されているから違う。トランプはいったい何が言いたいのか?

「なかでも私ほどひどい扱いを受けた大統領はいない。なにしろ撃たれたんだぞ」

 リンカーンは射殺されたよ!

 トランプは原稿もプロンプターも読まないことを自慢しているが、これはあまりにも支離滅裂。6月のバイデンとのテレビ討論会でトランプは「バイデンは何言ってるのかわからない」と笑ったが、自分も似たようなもんだ。

 同じ日の夜、やはり接戦州ウィスコンシンのラクロスの集会でトランプは、物価高について話し始めたが、これもひどかった。

「この物価高でもうベーコンが食べられない人たちもいる。だからエネルギー価格を下げなければ」

 ベーコンとエネルギー価格、関係あるの? たしかにカリフォルニアでは豚肉の価格が上がったが、その原因は豚の飼育環境の改善が法制化されたからで、エネルギーは関係ない。

「価格が上がったのはロクでもないエネルギーのせいだ。風力さ。民主党政権は風力発電を増やしすぎた。風が吹かないと困ったことになる」

 風が吹けば桶屋が儲かる、ならぬ、風が吹かないとベーコンの値段が上がる理論。落語かよ!

明らかにセクハラ…

 さらにトランプは黒人の雇用について話した。

「(バイデン&ハリス政権下で)アフリカ系アメリカ人は職を失っている。聞いたことないかもしれないが、最新のデータがある。黒人のすべての仕事、107%くらいは不法移民に奪われているんだ!」

 いやー、さすがに聞いたことないなあ。だって107%って「すべて」以上じゃん。その7%はどこから奪ってるの? 実際はアフリカ系の失業率はバイデン政権下で下がり続けている。

 ひどい遊説をしながら、トランプはSNSでもっとひどいデタラメを投稿し続けた。8月28日、トランプは自分で運営するSNSトゥルース・ソーシャルで、こんな投稿を760万人のフォロワーに拡散した。若き日のカマラ・ハリスとヒラリー・クリントンが並んだ写真に「二人のキャリアはフェラチオで変わった」と書かれている。それはカマラ・ハリスがカリフォルニア州の地方検事補だった1995年頃に噂されたサンフランシスコ市長とのロマンス、それにビル・クリントンのモニカ・ルインスキーとのスキャンダルを揶揄している。この投稿は明らかにセクハラだ。トランプ自身は民事裁判で性的暴行犯と認定されているのに、よくやるよ。

 翌日、トランプはスーパーマンの顔を自分と入れ替えたコラージュを拡散。もはや幼児退行を始めたのかな?

 同じ頃、カマラ・ハリスはCNNのインタビューで「トランプはあなたがアフリカ系だとは知らなかった、と言っていますが、それについてご意見は?」と聞かれ、笑顔で「次の質問を」といなした。アホな言いがかりの相手をする必要はない。

 あ、ちゃんとした質問にはちゃんと答えなきゃね、河野太郎さん。

幼児退行(ようじたいこう)とは、一般的に大人や子どもが年齢に応じた行動や思考の発達を超えて、幼児期のような行動や感情に逆戻りする現象を指します。これは心理的なストレス、トラウマ、過剰なプレッシャー、あるいは病気や障害などの要因によって引き起こされることがあります。

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