町山智浩の言霊USA 第749回 2024/12/07

Non compos mentis(心神喪失状態)

 トランプ第二次政権の閣僚指名が続き、畑違い(はたけちがい)の素人(しろうと、しろとしろと、しらびと)と性犯罪容疑者のオンパレードになってきた。

 トランプは司法長官にマット・ゲーツ元下院議員を指名した。トランプを起訴した司法省を激しく批判して忠実ぶりを見せたからだろうが、法曹(ほうそう)経験は弁護士事務所に2年在籍しただけ。

 それにゲーツは2017年に当時17歳の少女を買春した疑惑で下院倫理委員会から調査されている。倫理委員会はその少女(現在は成人)の証言も取ったが、ゲーツが議員を辞任したので調査はストップ。共和党は調査の資料の公表を止めたが、その資料は次々流出。女性に代金を振り込んだ明細まで出てきた。さらにゲーツが代金1万ドルで少女たちと3Pしたことまで報じられた! スクープ直前にゲーツは司法長官の指名を辞退した。

 ホッとしたのは共和党の上院議員。こんなロリコン野郎を司法長官として承認するわけにはいかない。でも、承認しなきゃトランプから粛清される。議会襲撃でトランプの弾劾(だんがい)に賛成したリズ・チェイニーのように。

 続いて次に控えしは、トランプが国防長官(こくぼうちょうかん)に指名したFOXニュース司会者(!)ピート・ヘグセス。州兵としてイラク、アフガンに従軍したが、州兵だから後方任務。大部隊の指揮経験も国際安全保障の経験も無し。しかも性的暴行で警察に通報されていた!

 公表された警察資料を読むと本当にひどい。2017年10月7日、カリフォルニアのホテルに夫と宿泊中の当時30歳の女性が、バーでヘグセスが他の女性の脚を触った(さわった)ことを見咎めて(みとがめて)口論に。だが、途中で彼女は意識を失う。飲み物に薬物(やくぶつ)を入れられたらしい。気がつくと彼女はヘグセスの部屋にいた。また意識を失うと次はベッドの上でヘグセスに犯されていた。ヘグセスは彼女の腹に射精し、彼女は部屋を脱出して病院で治療を受け警察に通報した。

 なぜかヘグセスは起訴されず、数年後、被害者女性に「秘密保持契約金」を支払っている。こんなデートレイプ野郎に国の守り、いや、世界の軍事を任せる?

 またその次に連なる(つらなる)は、国民の医療を司る(つかさどる)厚生長官に指名された弁護士ロバート・F・ケネディJr(RFKジュニア)。ケネディ元大統領の甥だが、ケネディ一族から縁を切られている。というのも、「自閉症の原因はMMR(はしか混合)ワクチンだ」という危険な陰謀論を主張しているからだ。

 RFKジュニアは医療の経験も知識もゼロだが、2019年にはサモア首相を説得して国民へのワクチン接種を止めさせた。その結果、サモアでは麻疹(はしか)が大流行し、83人が死亡した(ほとんど子ども)。こいつが厚生長官になって全米でワクチンを禁止したら何万人死ぬかわからない。

 さらにRFKジュニアは変態だ。1998年、当時23歳のベビーシッターの全身をまさぐり、寝室にまで入って来たと告発されている。2001年頃、40人近くの女性とセックスをして日記に記録し、それを読んだ2番目の妻メアリーが離婚を考えた。ジュニアは先手(せんて)を打って子どもの親権を奪い、絶望したメアリーは2012年に自殺。問題のセックス日記は翌年、ニューヨーク・ポスト紙に流出した。

 RFKジュニアがどうかしてるのは15歳の頃から14年間ヘロインとコカイン漬け(づけ)だったせいか、豚肉から寄生虫(きせいちゅう)に感染して脳細胞を食べられたせいか(どっちも事実)。それを厚生長官に???

 バカ人事はまだ続く。教育長官にはリンダ・マクマホン。プロレス団体WWEの総帥ヴィンス・マクマホンの妻で元共同経営者。やっぱり教育についての経験は一切(いっさい)ない。

 夫ヴィンスは既に元従業員に対する性的暴行と人身売買でFBIの捜査を受けている。被害者の口止め料を会社から払ったのでリンダの関与も疑われている。リンダ自身も訴えられた。1980年代から90年代にかけてWWEのリングアナウンサーのメル・フィリップス(既に死亡)に性的虐待を受けた少年5人が成人してから責任者だったリンダとヴィンスに民事訴訟を起こしたのだ。

これは政府解体人事!

 さて、どんじりに控えしは、トランプの「政府効率化省」に指名された億万長者イーロン・マスク。6月に自身が率いる宇宙開発企業スペースXの元従業員8人からセクハラと不当解雇で訴えられ、インターンを含む従業員2人と性的関係を持ったと告発されている。もちろん当のトランプ自身も何人もの女性からセクハラを訴えられ、民事で性的暴行が認められた。

 まったく類友(るいとも)というか、2017年頃、#MeTooで性加害者たちが告発されまくったのが嘘みたい!

 前科者ばかり集めたワイルド7みたいだけど、こっちは全員、未経験の素人ばっか! トランプは第一次政権では閣僚にその道のプロばかり選んだので、違法な命令にことごとく逆らわれて(さからわれて)次々とクビにした。だから今回はトランプの言いなりになる人間ばかり選んだのだ。

 彼らは仕事ができないだろう。でも、それこそトランプの望むところ。違法こそすべてのトランプにとって司法省は邪魔でしかない。実際、FBI長官を、「FBIをぶっ潰す!」と公言しているカシュ・パテルと交代させると言っている。国防省だって、「他の国を守る義理なんかない、NATOから抜けたい」と言っているから必要なし。さらに「公教育(こうきょういく)は必要ない。教育省も廃止する」とも言っているので、プロレスの元経営者が長官で問題ない。これは政府解体人事なのだ!

「彼はNon compos mentis(心神喪失状態)だ」

 法律用語を使ってトランプを批判したのは弁護士、RFKジュニア。2016年のラジオ出演時の音声が発掘されたのだ。あんたも大概(たいがい)だよ!