THIS WEEK「国際」 野嶋 剛 2024/02/29

《台湾の天才》オードリー・タン「大臣不適格」と四面楚歌(しめんそか)状態

「天才IT大臣」の名で知られる台湾のオードリー・タン(唐鳳)氏(42)。新型コロナ対策で名を上げ、日本でも著作が発売されるなど、最も有名な台湾人の一人である。現在、デジタル発展相(はってんしょう)を務めるが、与野党から「大臣不適格」との批判を浴び四面楚歌状態だ。

 与党・民進党寄りで知られる自由時報が2月中旬以降、連日のようにタン氏の批判記事を掲載した。昨年10月に日本の京都で開催された国連関連のイベントでタン氏は講演したが、その際、「大臣」の肩書きを使用せず、さらにオンライン参加を選択したことが、台湾の「格」を下げた(さげた)と批判したのだ。記事には同党の関係者の実名談話も次々と載った。野党寄りの新聞も社説などで批判に便乗(びんじょう)。今年5月の総統交代を前に更迭かとの情報も駆け巡った。

 1月の総統選挙で民進党が苦戦した理由をタン氏の行動と結び付けて考える人が増えていることが背景にある。総統選では、中国がTikTokなどを通したフェイクニュースを流したとされるが、タン氏はネットの自由な言論を守るという立場ということもあり対応は消極的だった。これに与党内で不満が渦巻いて(うずまいて)いるとみられる。

 以前は、デジタル担当の無任所(むにんしょ)大臣で、自由自在に動き回り、タン氏の能力が存分に生かされる形だった。

 しかし、2022年に、鳴物入りで新設されたデジタル発展省のトップに抜擢されると評判が徐々に変わり始めた。IT(情報通信)からネットセキュリティーまで幅広い領域を統括する大きな役所で、予算も期待も大きかった。しかし人事や他省庁(たしょうちょう)との調整がうまくできないとの不満が広がり、選挙前には「行政官としての資質」に疑問符をつける意見が広がっていた。

 ある与党立法委員(国会議員)は「発展相は水土不合(適材適所ではない)の人事だった。タン氏は自由人。新設省庁の複雑な調整の仕事には向いていなかった。かつての輝きはもうなく、更迭はなくても5月の交代は確実だろう」と語る。

 タン氏はもともと組織に忠誠を尽くして働くタイプではない。目の前にあるミッションに最適の解を探し出し、問題解決の方法を提案することに優れており、無任所大臣時代は総統がゴーサインを出せば各省庁は動いてくれた。しかし、特定の省のトップになると他の大臣たちも「省益」を守ろうと考え、仕事がスムーズには進まない面があった。

 タン氏が天才的スキルを有し、革新的アイデアを出せる人物であることに疑いはない。だが、「中間管理職」の大臣というポストは、タン氏の得意な戦場(せんじょう)ではなかったのかもしれない。

なりものいり 0【鳴り物入り】 ① 舞踊や演劇で,鳴り物を入れてにぎやかにすること。 ② おおげさな宣伝などが行われること。「―で新製品を売り出す」「―でデビューする」