アメリカ大統領選挙2024

アイオワ州マスカティーン=高野遼2024年1月14日 9時30分 朝日新聞デジタル

数年で「トランプ党」に様変わり アイオワの旅で共和党の深部を探る

 見渡す限り続いていたトウモロコシ畑は収穫期を終え、いまや一面の銀世界だ。米アイオワ州は、北米大陸の真ん中にある。首都ワシントンから出張取材に訪れるのは、気付けばこの半年で5回を数えていた。

 大地を突っ切るように走る直線道路でハンドルを握りながら、取材で出会った人々の顔を思い返す。 連載 混迷を歩く アメリカ大統領選2024

米国のリーダーを選ぶ4年に1度の大統領選が、2024年11月に迫っています。国内外で難しい課題に直面し、混迷の淵でもがいているようにもみえる米国。記者が現場を歩いて大国の実像をとらえ、随時、報告します。今回は共和党の候補者選びが始まるアイオワ州が舞台です。

【候補者指名争い】政権奪還目指す共和党主要3候補の人物像は

 「あなたはトランプ氏を支持しますか?」

 アイオワの人々を取材するたび、いつも重ねてきた問いだ。

 世論調査をみる限り、2024年11月の大統領選では共和党のトランプが民主党の現職バイデンを下し、大統領に返り咲く可能性は十分にある。刑事事件で次々と起訴されても、なぜトランプの人気は根強いのか。いや、そもそも実際のところ、トランプはどれほど支持されているのか。実態を探りたかった。

運転していると時折、収穫を終えた広大な畑のなかに「トランプ」と書かれた看板があるのが目に留まる=2023年12月12日、アイオワ州マスカティーン、高野遼撮影

「トランプ」と書かれた看板.png

トランプ現象のいまは? 10日間の取材の旅へ

 アイオワを取材の舞台に選んだのは、全米で最初に共和党の候補者選びが始まる州であるためだ。選挙戦でスタートダッシュを狙った有力候補たちが、毎週のように選挙集会を開く。

 ただ、有権者の取材は思ったほど簡単ではない。数日程度の出張でランダムに声をかけても、話を聞ける人数はどうしても限られる。深いところの本音はなかなか分からない。

 そんな時、取材の案内役を買って出てくれる人物に出会うことができたのは、23年夏のことだった。

 かつては共和党の州下院議員を務め、弁護士でもあるウォルター・コンロン(76)。党関係者が集まる集会で出会って話が弾み、「もっとアイオワを深く取材してはどうか」と促してくれた。

ウォルター・コンロン.png

 元議員なら、地元政界への人脈も期待できる。本人も地方政治の変遷を知り尽くしているはずだ。コンロンの地元が、州東部マスカティーン郡だというのにも興味を引かれた。トランプ躍進の象徴ともいえる地域だったからだ。

 地図をみるとわかりやすい。全米には、08年と12年の大統領選では民主党のオバマが勝ったのに、16年と20年には一転して共和党のトランプが制している選挙区がある。そこに色を塗っていくと、アイオワ州東部が際立つ。

古参議員からみて、トランプ派は「新世代」

 現地ではまず、コンロンの親しい友人から紹介してもらった。古参の共和党員だから、政治に関心の高い知り合いも多い。

 集まってくれた5人と机を囲んで、早速質問をしていく。「この中でトランプに投票する人は?」

 少し意外な展開が待っていた。静まり返って誰からも返事がない。知人にトランプ支持者はいないかと尋ねても、「あまり……」と歯切れが悪い。

 世論調査によれば、共和党員の6割はトランプ支持だという。熱烈な支持者にも難なく出会えると思っていた。「それが目的なら、訪ねる相手が違ったかもしれない」と1人が気まずそうに言った。

 5人のうち多くは、過去の選挙ではトランプに票を投じることもあったという。だが、その後のトランプの振る舞いに嫌気が差し、今回は他の候補に票を投じる、と口をそろえた。

 「私たちはみんな、昔から政治に関わり、投票をしてきたタイプの人間だ。でも、トランプの支持基盤になっている人たちは、少し違う。トランプは政治に参加してこなかった人たちの心に響く言葉を投げかけ、投票所へと突き動かした」

 州下院議員だったジョシュ・バーンズ(49)は、そう説明してくれた。

 古くからの共和党員であるバーンズらは、トランプ支持者を「新参者(ニューカマー)」と呼んだ。そして、トランプを支持しない自分たちは少数派になってしまったのだと語り、自嘲するような笑いをみせた。

 トランプを支持する人と、そうでない人と――。両者の垣根は、共和党支持者の間でも、思った以上に高いのだ。